D・W U

□Episode.57
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     「わすれ、る……?」








涙は今も流したまま、掠れた声で
アリスは姿形もない闇にある何かに問う。










    『忘却を持て。


     さすれば、楽になるよ』










どこか可笑しそうな口振りで呆然とした
アリスへ囁く“何か”。






    「わすれたら…
     このくるしいのもきえる?」








闇の中で満足気に嗤うそれにアリスは
少しも気づかない。








     『ああ。だから…、



      泣くのはお止め……?』








宥める口調は、微かに意味深く。




それを聞き入れる様に、アリスは
汚れ一つない真っ白な袖で涙を拭う。












     『さあ、こっちへおいで』












言葉とは裏腹に声色は緩和した物ではなく
狂喜に満ちたもので。








    「わたしがわすれたものは
     どこへ、いっちゃうの…?」






危機感や警戒心を微塵もなしに
声の元へ歩むアリスは無垢な瞳で問う。

しかしその色は、以前と違い僅かながらも
褪せて見えた。





何も知らない小さな娘に、ふと笑むそれ。








   『忘れしものは何処へも行かない

    ただ消えていくだけ…。



    しかし、アリス。君は…
    自らの“影”に捧げると良い』








     「か、げ?わたしの…?」








低く放たれた言の葉は、小さなアリスの
身体を捕らえ、アリスは問い返す。















    『そう。キミの影。


     それに捧げれば良い─────



     キミの持つ“闇”を…!!』












      「っ…────!!!」








自分の姿すら映さない暗闇の中
背後に深く微笑む気配がした。












     ザァァッ!!!!



















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