D・W U
□Episode.60
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オレ達 魔族は、人とは違い
時の概念に囚われる事はない。
だから、数年の歳月はあっという間。
しかし、オレ達には長過ぎて。
早く会いたいと、あの子を捜しては、居ないと焦燥する。
判断力が働かない中、しらみ潰しの探し方を止め、絞り込むように探索していたある日。
夢を渡り、アリスを捜していた白が、そんな言葉を口にしたのだ。
嬉しかった。
見つかったと知った事だけじゃない。
この世に、確かに存在していると知れたことが。
『……貴方達は、誰?』
想定内だった。わかっていた。…それでも。
信じたかった。アリスなら、忘れないって。憶えていてくれるって。
何も言えずに立ち尽くすオレとは反対に、取り乱さず、予定通り話を進めていく白の思考は、相変わらず読めない。
笑顔で話すその姿は、他人事で。
まるで、アリスとは初対面のような面持ちに見えて。
その時、思った。
コイツは…白は、変わらず一線をひいている。
そして、何か重要なことを、知っているんじゃないかと。
何度見ても、アリスがオレ達の知っているアリスじゃないことが容易に窺えて、苦痛だった。
でもな、アリス。
君の瞳を見て、声を聴いて、改めて判ったことがあるんだ。
「記憶を失っても、どんな姿でも
アリスはアリスだ。
────オレ達の求める…光。」
ふ、と微笑を浮かべると、乾いたタオルをまた取り替えるため、手を伸ばす。
「(熱は……引いた、な)」
取り替え様に、額に触れ安堵の息を吐く。
すると、静かに身動ぎしたアリスの瞼が、ゆっくりと上がる。
思わぬ事態に、濡れた手拭いを持ったまま固まり、瞠目してしまう。
「……目が覚めたのか、アリス」
気を取り直し、静かに呼び掛ける。
アリスは、ぼーっと眠りから完全に醒めていない様な眼で、天井を見詰めていたが、暫くしてこちらへ目を向けた。
正直、目が覚めたことには安堵したが、ウィルの言う様に、不安でもあった。
大嫌い≠サの一言は必要以上に堪えた。
アリスは昔から、大きく感情をぶつけてくることはなかった。
だからだろうか。
泣き叫ぶ姿を、初めて見て、どうしようもなく辛かった。
アリスを理解できなかったこと。
護ると言っておいて、泣かせたこと。
アリスに対しての感情よりも、自分を許せないというものが大きくて。
こう考えている中で、アリスはまだ意識が定まっていないのか、無言のまま瞬きをして、オレを見ていた。
他に掛ける言葉が見当たらず、オレは、ただ微笑むしかない。
すると、アリスは今までとは違う穏やかで、けれど寂しげな笑みを浮かべたのだ。
ふわり、香った花の香り。
アリスの表情で、呆気に取られていたオレは、体重が掛かったことと、対応出来ず 後ろへ倒れてしまったことで、漸く気づく。
アリスがオレに抱き着いてる、と。
ベッドから落ちることも構わずに、飛び込んできたアリスと壁に挟まれながら、何事かと首を傾げるオレ。
「………アリ、ス?」
理由が分からないなら行動しようがない。
その為、どうしたのかと問おうとするが、アリスが唐突に漏らした一言に固まる。
「────ごめんね。」
耳を疑う。今、ごめんねって、そう言ったのか…?
アリスが口にした突拍子ない言葉は、オレを瞠目させる。
「キライ≠ネんて、嘘なの…
本当はそんな事、少しも
思ってなんか、ないのに…」
絶句しているオレを余所に、アリスは静かに話始めた。
話の途中に、オレの首へ回した手に僅かながら力を入れるアリス。
「…………、」
オレは直に伝わる震えに何も言わず、ただ無言で、途切れ途切れに紡がれる言葉に、耳を傾けた。
「嫌いになんてなる筈、ないのに…
だって月夜は……
私の大切な友達で、家族だから」
予想外のそれに、言葉を失う。
「いつも、私と一緒に居てくれて
何も言わずに、守ってくれる
私の何よりも大切な、家族…」
ぎゅっと抱き着くアリスの表情はオレの眼からは窺えないが、涙は流していない事はわかる。
優しいその声は、嬉しそうに笑みを浮かべているのだろうか。
「、アリス……」
やっと声に出せたのは、彼女を呼ぶ、震えたそれ。
「ごめんね、月夜…
────ありがとう」
笑顔こそは見られないが、その心が籠められた言葉は、オレの心に深く、深く染み込んでいく。
「────大好きだよ」
満月の光が部屋に差し込む。
オレは満面の笑みを浮かべたアリスを遠慮がちにも、静かに抱き返しながら、その窓越しに浮かぶ、月を眺めて
一筋の涙を溢した。
「ああ、オレもだよ……」
亜璃朱の時とは違う意味が籠められた、感謝の言葉と笑顔。
ありがとう≠ニいう言葉を求めていた訳じゃない。
ただ“あの人”のため、自分達のためと、自己満足に護っていただけだと。
けれど、矛盾してるな。
その一言を聞いた瞬間
よかった≠ニ心から、そう思えたんだ。
この子を、この子の光を、勝手に求めて、護ってきた事を、誇りに思えた事が───幸せだった。
「アリス、記憶戻ったのかなぁ?」
壁に凭れ、屈む白は、自分と同じように周りで佇む存在へ尋ねる。
「そうね…。きっと戻っているわ」
「だと良いよな〜」
「……うん。」
その問いに答えたのはマリアであり、後に続き笑って頷いた、颯と黒。
彼等はアリスと冬夜の居る部屋の外で、扉の向こうを見つめながら、その先に居る少女を想う。
そして皆は、静かに笑みを零すのだった。
やっと君≠ノ逢えた
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