D・W U
□Episode.60
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その夜は、いつものように、変わらず、月を眺めていた。
オレの好きな、三日月。
唯一、奴とは違う、金色になれる時間。
母さんと同じ、金色の髪色に。
いつもと変わらぬ時間。
けれど、ふと下へ目を向けた瞬間、いつも≠ェ崩れ落ちる。
* * * * *
最初は、ただひとつの感情しかなかった。
驚愕。その単語が一番、その時の感情と一致していて。
気配には敏感な筈だったのに。
気を抜いていた訳ではない。
周りに隙なく、気を配っていた筈だ。
なのに、彼女は現れた。気配なく。
次の瞬間には防衛本能で、彼女の首に刃を当てていた。これ以上、隙は作れないと。
だけど、彼女は…小さな少女は、恐怖もなく、オレを見ていた。
その瞳は、どこか懐かしく感じる、優しいものだった。
* * * * *
『月夜って呼んでみて』
自分の耳を疑った。
自分の口から出た言葉は意思に反していて。
彼女の声や笑顔が、懐かしくて。
離れていく背中を見ていたら、不意にも、零れてしまったんだ。
捨てた名。嫌いな名。
『……月夜…』
けれど、だから、
彼女に呼ばれた時…泣きそうになった。
彼女が……、アリスが来てから
オレだけじゃない、皆も変わった。
『俺はお前を赦さねぇよ』
オレに少なからず、憎悪を向けていた颯も
『僕たちに近づかないでね』
黒以外に笑顔や心を見せなかった白も
『行かないで…』
引っ込み思案で、寂しがり屋の黒も
誰も寄せ付けずに、独りでいた…オレも。
みんな必ず、相手に一歩線を引いていた。
相手の深くに入ろうとはしない。
見えない壁が出来ていた。
しかし、そんな壁を容易く壊したアリス。
いつしか…いや、必然的にオレ達は
彼女に惹かれ、彼女の光を求めていた。
毎日が楽しくて、明るい空などない魔界でも、アリスが居ればそこには光がある。
しかしそんな日々は、ある日忽然と姿を消したのだ。
必死に捜した。魔界全土を。人間界を。
それでも、見つからない。
この心にぽっかりと穴の空いた感覚は何。
自分は、何を探しているのだと。
皆は、知らないと言う。わからないと言う。
じゃあ、何故。
オレ達は、こんなに笑っていたか。
こんなにも近い存在であったか。
オレ達の間には、なにか≠ェ
必ず在ったのではないか。
そのなにか≠捜しながらも、何か見落としているような感覚が、何度も思考を遮る。
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説明しきれない事が、魔界であった。
ただ言えることは、また何かが狂い始めた。
オレは罪の荊に巻かれ、使命を背負った。
白や黒も、颯も、マリアも……
オレが巻き込んでしまった。
何もかも、狂わせたのは、オレだ。
『アリスを、見つけたんだ!!!』
それは、不自然に消えた記憶が戻った数年後。
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