D・W

□Episode.30
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まさか…と思った。
だけど、ただ黙ってオレの左袖を掴む
『カナ』という少女の言いにくそうな
様子に気づいた自分の生まれ持つ洞察力を
こればかりは恨めしいと思った。
無関心で在りたかったのに。





     「……うん…」



僅かな望みは空しく
小さく頷いて応えるカナに溜め息をつき
オレ自身、何を思ったのか無意識に
また彼女の目線に合うように屈み
気まずそうに附せられた頭を軽く撫でる。






     「…?」



そんなオレの行動に困っていた顔は
不思議そうな表情に変えて
オレを見ている。

安心させるように微少して






  「『カナ』っていったな。
   此所へ迷う前は
   親と一緒に居たのか?」





出来るだけ怖がらせないようにと
静かに話しかける。話終えてから
意外にも優しげな声が自分から出たのには
驚いたが、少しそれに安堵したのは
もう既に目の前の小さな少女から、
この場から離れようという考えは
全て何処かに飛んでいたのかもしれない。







  「……?
   カナに“パパ”も
  “ママ”もいないよ?」





    「え…───」




その幼げに紡がれたものとは裏腹に
明るく告げられた言葉は
オレの思考を一時停止させた。







  ────親がいない…?










   …ああ、これじゃ
   情が移ってしまう───















   そんなモノ
   オレに必要ないのに。













   「今日はね、
    お兄ちゃんと来たの!」







続けるように放たれた声に
中断していた思考がふと戻っていく。






  「…そっか。
   兄ちゃんとは何処ではぐれた?」




    あの男達に囲まれていた頃
    兄らしき者の姿はなかった。

    もしかしたら既に
    その頃から迷子に…?





そんな考えを巡らせ
カナに問いかけたオレの言葉に
彼女は小首を傾げたが
オレの言った言葉を瞬時に理解した様に





  「あのね、お兄ちゃんと
   アイス食べてたの!」




───ああ、溶けて地面に拡がって
今じゃ消えているであろう、
手に持っていた二段のアイスか…。




質問の答えになっていないが
オレは何故か妙に納得していた。

ああ。それで?と楽しそうに話す
カナに受け答えをして。





  「それでね、『のどかわいたあ』
   ってカナが言ったら
  『買って来てやるから待ってろ』
  ってどこかに行っちゃった」




「優しい兄ちゃんだな」
そう言えば、カナは満面の笑みを浮かべて
嬉しそうに返事を返してくる。


だが、オレは自分で放った『兄ちゃん』と
いう言葉に思考を何処か遠くへ
追いやっていた。















   ────『兄ちゃん!』




















   ────『何だ? 夜』






   優しげにオレの呼び掛けに応えた
  『兄』という存在に、あの頃のオレは












    ただ楽しくて、嬉しくて







    もっと一緒に居たくて








    空間を越えてでも……、















     会いたかったんだ────。




















      あの頃の小さなオレは



       現在(いま)は



      何処に在るんだろう……?
















    「お姉ちゃん?」






長く思考回路でさ迷っていたらしい。
気づくと、道を歩いていた。
その左手には
小さなカナの手が掴まれていて。



無意識に道を歩いていた自分が
若干恐ろしく感じていると





   「カナのお兄ちゃん
    探しに行くんでしょ?」





オレの様子に気づいたのか否や
状況説明を短縮に告げた少女を見て

これは将来、しっかり者になりそうだな
と心の隅で感心しながら
そうだったな、と困り顔で相槌をうつ。







    「ねえねえ、お姉ちゃん」





    「………何?」




人気の少ない道を歩いて数分。
カナがオレを呼ぶ声に結構な間を空けて
返事を返す。オレは、あまりにも
この状況が、今現在の自分の行動に
呆れが増していたせいで返答する気力も
少々減っていた。

心なしか吐き出された言葉は
溜め息ものせて発せられた様にも
自分自身で思える。








   「お兄ちゃん、みつかるかなぁ?」





無防備に前を向いて発するカナの言葉に
また先程からの思考が
舞い戻ってきてしまう。







     「…………」




故に返答なんて出きる筈がなかった。










   「あ!! あっち!」






前だけを向いていたためか
それに気づかぬカナは、突然掴んでいた
オレの手を離して何処かに駆けていく。





     「…は?」




あまりに急なことで、何事かと目を
見張ったが、瞬時に物事を理解して動く体。

走るその少女を見失わないように
追いかけるオレ自身に、一体何してるんだ
と内心呆れていたが、何故か体が
勝手に動くのだから仕方がない。







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