D・W

□Episode.30
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    「どうした?」




多すぎるんじゃないかと疑いたくなる位の
人混みを上手く避けながら
走っていったカナを見つけて
問いかける。



そのオレの問いが聞こえていないのか
「あれ〜?」と困った表情を浮かべて
辺りを見回していた。




  「いま、お兄ちゃんがいたのに…」



    どこに行っちゃったのかなぁ?





え…とその言葉に耳を傾けようとしたが
突然 嫌に臭うある特有の香りが
漂っていたのに、目を見開く。


こんな時に限って…、魔族が現れたか。




   「あ…!まって…っ」




魔族の気配を感覚を鋭くさせ探っていると
またも突然、路地に
何かを追いかけるように走りだした少女を
またか、と呆れ半分に目で追うが




    「…!!……ッ───」




鋭く全身を駆け巡ったのは
視線の先から感じる『魔族』の気配。


思わず、最悪だと舌打ちをして
カナが向かった場所へと素早く走る。
























    「は…っ、お兄ちゃん!!」






やっと追いついたカナは
目の前に佇む 見覚えのある背を見つめて
息を切らしながらもその背に呼び掛ける。






     「……フ…」






その人物は 小さく笑みを零すと
ゆっくりとカナへ振り返る。





    「あ、れ…?」




目の前の『兄』の姿…いや、
眼を見てカナは表情を変えた。

何かがおかしい、というかの様に…。







    「カナ…ッ!!」







バッと黒い影がカナの目の前に現れ
カナはパアッと表情を明るくさせた。






    「お姉ちゃん…!!」






目前にはカナに背を向け、
守るように佇む冬夜の姿。







    『「何だよ、邪魔するな」』






声が二重に響くと、そのカナの『兄』の
姿は消え、現れたのは鋭く牙を生やした
“悪魔”と呼ばれる姿だった。





   「に、ちゃ…ん!?」






そのあり得ない姿に動揺の色を見せる
カナに夜は、








   「“アレ”はおまえの兄じゃない

    兄に化けた…“ニセモノ”だ」






目を瞑っていろ。静かに発せられる
夜の声に、訳がわからずも涙目の
目を隠すように、ギュッと強く瞼を閉じる。







    『何だ、オマエも同族かァ』





楽しそうに笑みを張り付けた悪魔を
よそに夜は目を瞑ったカナの姿を
確認していた。








   「お前は“此処”に在っては
    いけない存在だ。


   幸い、人間は殺してないらしいな」


     元の場所へ帰れ。






夜は眼を鋭くさせて睨み続ける。





    『ッ…!!』




夜の痛いくらいの殺気がこもった眼に
悪魔は背筋を凍らせ
身動きがとれずに居る。

夜の左目がじわり…、薄く紅く色づく。

そして、それは
左目に刻まれた三日月が濃く浮き上がる。







    シュッ━━━━




悪魔がカナに視線を変えた隙に
夜は瞬時に悪魔の背後にまわり腕を出す。







    『止めろォ…ッ!』






悪魔の慈悲を乞うような眼差しと言葉にも
とらわれず、ただ感情のない瞳で
夜の右腕は悪魔の頭を掴む。

夜の瞳にある三日月は
しっかりと目前の悪魔を捉えていた。






   「“オレ達”は此処に
    在っては駄目なんだ───」






     ズズズズズズ





    『ア゙ア゙ァァアア!!!』





その夜の言葉を最後に、悪魔は
突如 現れた漆黒の渦から
必死に足掻き、腕を一杯に伸ばしながら
容易くも呑み込む様に吸い込まれていく。




その様を目の当たりしていたカナは
涙もとまり、ただ驚きと未知なる光景を
前に目を見開きっぱなしでいた。















    「…大丈夫か?」





静かに語りかける夜。





   「だいじょうぶ!」



その問いかけにビクリと肩を震わせ
驚くが、夜の苦しそうでどこか儚げな
表情に夜の右手を握りしめ
ニカッと明るく笑って見せるカナ。

その何かを察しながら、幼いながらも
怖がらずに変わらず自分に接するカナの
笑顔につられて、いつの間にか
夜も笑みを零していた。
































    「おにーちゃん!!」








カナが先程 男達に囲まれていた場所の
近くでカナは辺りを見回している兄の姿を
見つけて、声を上げながら
真っ直ぐに兄のもとへ駆ける。




そんな姿を今度は追いかけず
ただ静かに見守る夜。


カナが笑って兄に頭を撫でられている
様子を見ていた夜は、ふとカナの兄から
感じた違和感に目を見張った。













   「───!!



    あいつは……、」


















    ────“オレ達”が
    忌み嫌う、その存在………。





      ザワ……









    全身の毛が粟立つ。








    オレの内に流れる




    死神の意志と血が




    その存在を滅ぼせと囁く───。

















     その少女の兄を














      目の前に在る






     滅魔使(エクソシスト)を
      消せと────。






















    「(え……、)」






カナが夜へと向かって走ってくるのを
見て、夜の思考回路はいつの間にか
止まっていた。











     「っわ…!!」




人混みに耐えきれなかった体は
簡単にバランスが崩れ、倒れようと
していた。


それを遠くから見ていた兄である人物は
驚いて 助けに向かうかのように
身動きをとるが それはカナを見事
支え止めた夜によって止まる。









    「何で、戻ってきた?」







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