D・W

□Episode.30
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夜に支えられながら、体勢を整えたカナは
えっとね、と言葉を少し濁す。

夜はそれを促すことなく
カナが自分から口を開くまで待っていた。









  「お姉ちゃんも、わるいのを
   やっつける人なの?」





率直に尋ねられ、夜は一瞬
焦りを覚えたがカナの真剣な瞳に
目の色を変えた。









   ────“も”って事は
   自分の兄の事を知っているのか…?






静かに目を伏せて、言うべきではないと
心の内では考えを巡らせたが
答えは無意識に一つの物が出されていた。











  「違うよ…。オレは
  “やっつけられる”側の存在だ」





小さく溢すように告げられた言葉は
幼いカナにはよく理解できなかったが
心に強く響いていた。





   「ほら…、兄ちゃんが待ってる」






     「…うん」




遠くから 見守る自身の兄の姿を見つめ
夜に促されながら、兄のもとへ足を進める。
だが、それはどこか後ろ髪が引かれる
といった様子。


察した夜は、小さく苦笑し
右腕に巻き付けていた革紐を解く。






     「……?」





その様子を見ていたカナは首を傾げ、
そして仕上げといった様に
夜は革紐の中心に自身の能で
珠の様に丸い形に凍らした。





   「すごい…! …へ?」





歓喜の声を上げるカナに夜は屈み
手招きをする。それに従い夜に近づくと
カナは夜から革紐で出来た
首飾りを首に掛けられる。








   「今のは誰にも
    言っちゃいけない秘密だよ」




夜は口元に人差し指をたてて
薄く笑みを浮かべた。






カナは、首飾りを握りしめて頷き、
口を開く。


















    「ありがとう!!





     またね、お姉ちゃんっ」











そう言って走り去る小さな背中を
驚いた眼差しで見つめ
ふ、と夜は微笑を溢した。




























     「ジンお兄ちゃん!」





先程までつけて無かった見覚えのない
ネックレスを首に掛けて
『妹』のカナは戻ってきた。



それ どうした?と問えば
何故か得意気にヒミツと返ってきたのには
少しながら驚いてしまう。


秘密事なんて俺には一切
今まで無かったから。

まあ…俺自身、カナに秘密にしてる事は
沢山あるけど。それはまた別。

実際 今日だってカナには休みだと言って
来たが、本当は任務があった。

だけど、心優しい先輩が
「俺一人で行くから、おまえは妹に
会いに行ってやれよ」と
言われれば、ありがた〜〜く
そうさせて貰うしかない。
ぶっちゃけ任務がダルいからラッキーとか
思ってなんかない。



 …あ。長く語りすぎた。






とまあ、それらがあって
俺はカナの飲み物買いに行ったら
迷ってしまい、やっとのこと戻ってこれた
と思えば妹の姿がない。あれは焦った。

んで、会えたと思えば
今度は黒一色といえる格好をした得体の
知れないヤツのとこから走ってくるし。

大丈夫なのかよ。
まあ、迷子だったであろうカナを
連れ戻してくれたのには感謝しますけど。





    「ジンお兄ちゃん?」




    あれ?…おい、待て…。







    「カナ、あの人誰だ」







冷や汗を頬に滴ながら
俺は冷静を振る舞うように問う。





  「? カナを助けてくれたの」






   ────助けた?何から?


    そんな事、ある筈ない。





    アイツが纏う空気は異常だ。







    アイツは……魔族だ。












俺は何故かその場から動けずに
ただ真っ直ぐにカナを助けたとかいう
ヤツを見据えていた。








    「…!!(笑…っ?!)」



そう…、笑ったんだ。ヤツは。
馬鹿にしたとか、
見下す様なとかじゃなく
ただ笑っていたんだ。




その妖艶といえる笑みは誰もが見惚れる。
だけど俺には不気味で酷く恐ろしい
それにしか見えなかった。





人混みの中で佇む得体の知れないアイツは
先程から存在しないかの様に
皆 アイツを見向きもせずに通りすぎる。
一人、二人、三人。目の前を通る人の影が
アイツの姿を隠す。また一人、二人と
人が通りすぎた後のアイツの瞳を見て
思わず息をのむ。
















    ───左目が、紅い…!?

























  ────「恐ろしいって
       もんじゃないぞ!!!」





  ────「えー?何がっスかあ?」





  ────「あ、ジン。
  何だ、お前も話に混ざりてーのか?」





  ────「いや? いい年こいて
      震え上がる様子が面白くて
      何の話してるのかなってさ」





  ────「何気に酷いな。」







  ────「『紅眼の処刑魔』の話さ」





  ────「何スか、それ」






  ────「オッドアイの死神だよ」






  ────「オッドアイの死神ぃ?
       聞いたことないっスけど」





  ────「滅魔使の中じゃ知ってて
       当たり前の常識だぜ…?」
















  ────聞いた話じゃ
  罪を犯した魔族を処刑する死神だが
  そいつの紅い瞳は何故か片目だけ。




   そのオッドアイのヤツが現れたら
   生きて帰れないんだと。



   滅魔使(エクソシスト)は
   必ず消されるって話だ。


















   まあ、それが俺等の宿命であり、








     死神(ヤツら)の定めだがな。























今になって思い出す。あの会話の内容。

それは全て 数メートル離れたアイツに
当てはまっていた。


背筋が凍るのを感じる。













   『死神』……魔界の神で
  すべてを破滅へと墜とす存在




   その中でも 俺達 滅魔使が
   危険視してる奴が今目の前に在る






   まるで、時が止まったような
   錯覚に襲われ 気分が悪い。

















     「おにいちゃん!!!」







      「───!!」






俺を呼ぶ声に我にかえり、カナを見ると
不安げな表情で俺の服を掴んでいた。

ごめん、と頭を撫でてやるが
どうにも腑に落ちないといった
顔をしている。



困ったな…とカナを横目に見る。
何してたんだっけと考えて
はっと気づき、また人混みの先を見たが



あの左右対称の瞳(め)を持つ存在は
もうそこには無かった────。











     「……はは。」





    「? どうしたの?」




自嘲の空笑いを零す俺にカナは
小首を傾げていた。














  ────驚く程にすごく安心してる













    「何でもない。…ごめんな」




















     ハッ。情けねえ…。









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