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□Episode.37
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「…っ、あの…!」
その場に立ち止まったまま、アリスは
ギュッと目を瞑ると勢いよく振り返り
声を上げた。
「あ、れ…。居ない…?」
振り返った先には ニット帽子を被る
少女の姿はなく、静まり返った空気が
辺りを占めていただけ。
「……私─────」
誰も居ないと知っていて尚も
アリスは口を開き、言葉を紡いだ。
「私、あなたの
髪や瞳の色…好きだよ。
とても綺麗な色をしていて」
静かなその場所には、
ただアリスの声だけがあった。
「それに、この杜と同じ
優しい色をしているから────」
そう言い残すと、アリスは踵を返して
並木道を駆けていく。
その場所には、再び沈黙な
とても静かで淋しい空気が流れた。
「…っ─────」
ただ其処に、一人の少女を除いては。
少女は、木の枝に座り込み
目を見開き続けていた。
少女は、右手を幹に添えたまま
手を強く握り締める。
左手は額に当てられ、少女の表情を
僅かに隠して。
帽子で押さえられた緑の髪の合間から
覗くのは、髪と同じ色をした潤んだ瞳と
微かに震えながらも
つくられる…笑みだった。
「ほんと、不思議な子やなぁ…っ」
静かにその場で立ち上がった彼女の
脳裏に映ったのは、
僅かに笑みを残しながら 駆けていく
アリスの姿。
風が吹いていく。
その木には、もう緑の瞳をもつ
少女の姿はなかった─────。
────to be continued...
吹き荒れる風が招くのは
幸福? 厄災?
それを知ることが出来るのは…
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