D・W U

□Episode.37
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     「────……」







何者かも分からぬ声に、返事を返せず
少女は声の主を一目見ようと
聞こえた方に手を木に添えながら近づく。










        グイッ



    「さっさと答え。何モンや?」






突然、空いていた左腕を掴まれると
そのまま下の方へ引っ張られ、少女は
容易く その力によって前へ倒れるように
膝を地面につく。








     「あ、の……」








少女が困惑の色を帯びた声を発した先は
草の上で、仰向けに寝転がった人物に
視線と共に向けられた。




この人物が少女の腕を引寄せたのは明白。
何しろ、今もまだ 少女の腕を掴んでは
放そうとはしないのだから。


そして、先端に丸い飾りがついた
ニット帽を深く被っていた人物は
返事が返ってこないことに、
自身が深く被る帽子の
目元辺りに指を入れて、それを持ち上げる。








    「あ…、」「え゙。」






二人が放つ短い声は、ほぼ同時。




















ほんの数十秒、
辺りに沈黙の空気が流れる。






その間、驚愕の…目を見張って
固まる人物とは反対に、
少女は至って冷静で 目の前にいる
ニット帽の人物がもつ瞳に
少女の視線が奪われていた。



その緑色の瞳は、微かに漏れる光に
反射して輝き、とても綺麗な瞳だと
少女は眺める。






     「ッ……!」






緑の瞳をもつ人物は、はっと我に返ると
一瞬で帽子を目元まで再び被り
素早い動作で、少女から距離をとるためか
徐々に離れていく。










   「アンタ、ヒトやろ…?
    なんで…こないなトコ居るんや」






警戒心をわかりやすく面に出して放つ
人物の言葉に、少女はその殺気に
気づきもせず
ただ不思議そうに首を傾げるだけ。








    「……なんやねん、アンタ」










     「────アリス。」





汗を頬に流し、
問われる少女は…アリスは
自身の名を紡いだ。



その問いに噛み合っていない答えに
「へ?」とニット帽の人物は、
呆気にとられる。










   「わたしの名前…。
   『アンタ』じゃなくて『アリス』」







真っ直ぐに見つめて返す、アリスの言葉を
聞いた人物は…、









     「ぶっ!はははははっ」




大爆笑だった。その笑いで辺りに
張り詰めていた緊迫感が和らいでいく。


アリスは、何故笑っているのか
理解できなくて、目を瞬きしていた。









  「アンタ、いや…ちゃうかったな

   アリスちゃん、可愛いだけやなく
   めっちゃ面白いなあ!」





先程の警戒心とは全く違い、にこやかに
満面の笑みを浮かべて ニット帽を
被り直す人物…いや、少女にアリスは
微笑で応えた。







    「ん?…あー…、この眼?」






アリスの視線に気づき、
少女は苦笑しながら自分の眼を差した。

その問いかけに、
素直に頷いて返すアリス。









   「……生まれつきなんよ


    病気や呪いでも
    かかってるんちゃうかな〜
    なんて…ははっ。…え、」






冗談っぽく笑って言う少女は、
近づいてくるアリスに身を強張らせる。








    「えっ、何しとるん!?」






      「…………」






自分の目元に触れてくるアリスに
当然 驚き後ずさる。










      ポゥ…━━━━━





     「────!?」






突然、目元で光るものに目を見張る
少女の困惑の視線はアリスへ向いていた。













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