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□Episode.37
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    ━━━━━フッ…





静かに消えた光と同時に、少女から
少し離れたアリスに







   「アリスちゃん…
    アンタ、何モンなんやっ?」




少女はアリスの肩を両手で掴み
どこか心配そうな表情を浮かべ、
問い掛ける。







     「その能は…っ、!?」





アリスの肩に置いた左腕が
袖から出ている事に気がつくと
少女は目を見開いて、腕をアリスから離し
自身の腕に巻きつく布を捲った。






    「っ…、ごめん…。
     …ありがとぉな。

     アリスちゃんのお陰で
     治ったよ。ウチの“怪我”」






左腕を押さえ、眉尻を下げていたアリスに
笑いかけ、お礼の言葉を紡ぐ。



心底嬉しそうに表情を変えたアリスを
見て、少女もつられて笑みを漏らす。







































    「って事は、
     迷い込んできたんやなあ」





少しばかり此処に来た事情を
聞いた少女は息を吐き、
アリスはそれに小さく頷いて応えた。








    「この杜(モリ)は気紛れでなぁ…
     よくヒトを迷わすねん」





大樹に凭れ、微笑を漏らす少女。

アリスも同じように木の下で座っていた。









     「杜(もり)って…?」




小首を傾けるアリスに
少女は笑って かわいいなあ、と零す。









    「この杜にはな…神さんが
     棲んでるって
     言い伝えがあるんや」



神さん≠ネんて
大層な器やないんやけどな。

心底 呆れ返った様子で呟いた声は
アリスには届いてはいない。






    「今 此処には居ないのね」





ふと零れたアリスの言葉を耳にして、
少女はアリスを見た。


アリスは森に生える木々たちに
目を向けていて、少女の視線には
気がついていないようだ。







  「ほんでな、この杜は
  “特殊な存在”をよく迷わすんや

   極たま〜に、普通のヒトも
   迷わしてまうから
   この杜は、こう呼ばれてるねん」





一息つくように、言葉が途切れ
アリスは木々を見ていた目を
少女に向けた。





















   「────神隠しの森≠チて」




     あと、人拐いの杜≠ニも
     呼ばれとるなあ……







ははっ…、と渇いた笑みを零す少女に
アリスは また森中を眺める。









     「そんなこと、ないのに…」





ふと漏らされた、そんな言葉に
「え…?」と少女はアリスに尋ねた。








    「この杜は、
     皆を護ってくれてる」





立ち上がった、アリスを目で追いながら
少女も 木から背を離し、立ち上がる。











    「アリスちゃん…。

     アンタって不思議な子やなぁ


     この杜がアンタを
     導いてきた理由…、
     なんか解る気がするわ……」







嬉しそうに少女は微笑む。








     ぐうぅぅぅぅ…






突然の唸る様な音に、アリスは驚いて
聴こえた場所に目をやった。







    「あー、アカン。
     腹へってもうた」




苦笑混じりに、少女は自分の腹部を
軽く擦っている。

それに笑みを零すアリス。








       ザアァァ…



     「え…?────」




風が強く吹く。

アリスは風に引かれる髪を押さえ
そして少女は、








     「────来たな。」




ポツリと呟き、風に逆らいながら
少女が見る先は 暗がりの奥深く。







     「(…笑ってる…?)」



そう。少女は笑っていたのだ。
何もない場所を見据えて。遠くを見て
嬉しそうに笑っていた。

風が真っ正面から
吹いてくるのに構わず、
目を大きく開いて。

ニット帽の耳元は風の所為で
後ろに流れる。
耳元の先から垂れ下がる丸い飾りも
後ろに引っ張られるように。



彼女の表情は、嬉しさが溢れ
深くつり上げられた口元には
どことなく狂おしさが滲み出ていた。






     「…すごい風だったね」





風が不自然にも一瞬で止むと、少女の
笑みもゆっくりと消えていく。

少女は真横に向けていた顔を、
言葉を紡いだアリスへと戻すと
「そうやな」と先程とは全く違う…
楽しく話していた時の笑みで応えた。











    「腹も減ったし、もう行くわな


     タイミングよく アンタの
     迎えも来たようやし?」







     「迎え…?」







    「うん。あっちの並木道を
     真っ直ぐ行ったら、
     迎えのとこに着くわ」




そう言って、腕を伸ばして示したのは
左に生えていた木たちが真っ直ぐ形作る
“道”だった。その先には、
僅かだが、光りが合間見える。









    「あの道を進んだら、
     立ち止まったらアカンで。

     絶対に振り返らんようにな。
     “何があっても”や」




真っ直ぐにアリスの眼を見て話す
少女に応えるように、首を縦に振った。

その胸の内には、疑問が残ってはいたが
素直にアリスは従う。








   「なんやろ。…またアリスちゃんに
    逢える気がするわ〜


    ……お別れや。気ぃつけてな」




寂しげな表情を隠そうともせず
少女は、名残惜しそうに笑う。








    「…うん。ありがとう」





そんな表情につられてか、アリスまで
寂しさが募った。

















    「─────ほなね」






別れの挨拶を告げ、それを聞いたアリスは
小さく頷いて 並木道の方へ向く。













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