D・W U

□Episode.38
2ページ/3ページ









    「────狡牙さん…!」






行く手を阻む下級の一体を
大剣で斬った男の後ろから駆け寄る梓。



『狡牙(コウガ)』と呼ばれた男は
振り返ると目を見張った。








    「梓、戻ってきたか!」





    「はい。今、怪我人を運んで
     治療しているところです。
     狡牙さんも早く こちらへ」






目配せで、滅魔使アジト入口で
結界が張られた場所に、
怪我人たちが運ばれているのを示し
梓は、狡牙の手を引いて
半ば強引にそこへ連れていく。






   「すまんな、
    任務から戻って早々に。
    こんな状況で何だが
    無事に帰ってきて良かった」






深傷を負った左腕に淡い光を纏わしながら
狡牙は 梓にお帰り、と苦笑した。







    「…はい。傷を負った皆さんは
     私が責任を持って、治します


     後少しで真輝斗や瑞穂さんが
     任務から帰還します。

     ですから、それまで何とか
     持ち堪えてください…」





傷が塞がったのを確認すると
梓は立ち上がり、苦痛にその顔を
歪ませながら 狡牙に願いを託し
次の手当てをと、
他の怪我人の元へ踵を返す。







    「────梓。安心しろ。

     ガキ共が来るまで
    “俺等”が奴等の数を
     一気に減らしてやらァ」





狡牙の呼び声に、足を止めた梓は
得意気に紡がれた言葉に目を見開く。
















   「ガキ共に
    助けを乞うような真似なんざ
    年長者(おれら)が廃るしなァ」








懐から取り出した煙草をくわえ、
不敵な笑みをした狡牙の
どこか力強い言葉を聞いて
梓は渇を入れられた様な表情になると









     「────はい!」







力一杯の返事で応えた。
































      バンッッ━━━━!!







     「────っと…!」




逆さまからの体勢に宙で一回転して
スタッと軽やかに地面に着地。








     「…ジンっ!遅ぇぞッ!!」





その仕留める素早さに
一瞬 呆然としていた滅魔使の男たちは
ジンの姿を見るや否や、
嬉しそうに表情を明るくさせた。







    「遅くて悪かったっスね。


     おっさん等こそ
     何やってるんスか。」




ボロボロじゃないっスかー。



皮肉を混めて、小さく笑うと
男たちは「うるせえっ」「生意気だ」
と言いつつも ジンという戦力に
表情を綻ばせている。










    『何だ、アイツ…!

     ヤツらの仲間か!!』




目の前で 中級を一瞬で倒した
ジンの姿を見た悪魔たちは
有利だと惚けていた表情を
一気に恐れに変わっていく。












    『チィ…ッ

     悪足掻きをしない方が
     身のためだぞォ!!?』





声を荒げる悪魔の数体。








      クスッ────






一体の悪魔の耳に届いたのは
小さく漏らされた笑い声。
















     「あんた達こそ、ね」




小さな笑い声に反応するのも束の間…。




視界の端でヒュッと風を切る音と
共に速く動いた影を必死に目で追う。








    『ッ!!ナンダ!?』






その濁った瞳に映し出された
一つの影の姿は、悪魔に近づくように
横に回転し そして両の手には、
細長い十字架が強く握られている。









     『ッッ…!!!』






悪魔は錆びた金具が擦れ合う様な
不快な声を上げた。



そして十字架を両手に携えた者は
未だに微笑みを湛える。














   『クソえ゙ぐぞじずどガァ!!!』









      ザンッッッ━━━━








無惨にも切り裂かれる音が
辺りに響いた──────。





















     「ふぅ……────」





     「お。戻ったか



       ────瑞穂」





短く息を吐いた瑞穂に気づいた
狡牙は、迫り来る悪魔を斬り捨てる。








     「───あ、おじさん!」




     『グギャッ────!!』






瑞穂が狡牙の呼び掛けに気がつき
近づこうと駆けるが、
その道を妨げるように悪魔が倒れてきた。







      「な…っ!」







瑞穂は唖然と、倒れ そして塵となり
消えていく悪魔の様を見つめる。








    「…真輝斗!
     危ないでしょ!?」






悪魔が消えた場所で地面に刀を
突き刺していた真輝斗を見た
瑞穂は溜め息混じりに声を出す。






   「真輝斗も戻ったか…

    良かった、良かった。
    俺ァ 疲れたから後は頼んだ」






仏頂面で佇む真輝斗に呆れたように
狡牙はへらへらと笑うと、
口にくわえていた煙草を地面に踏みつけ
次の一本を手にした。







    「煙草吸わねえと本調子が
     どうも出ねえんだよなァ」






     ━━━━ヒュッ!!




風を切る音を耳にして、反射的に
後ろに上半身を傾けた狡牙。






    「な、何すんだッ

     煙草どころか俺の前髪まで
     斬るこたァないだろ!」





最後の一本を〜〜!!!


半分に切れて土の上に落ちた
煙草を見て、頭を抱え 狡牙は叫ぶ。

その訴えは まさに抜刀の型をとる
真輝斗へと向けられていた。


二人の様子を間近で見ていた瑞穂は
苦笑を漏らす。








      「…チッ。臭ぇ。」





恐ろしい形相で狡牙を睨むと
真輝斗は気がすんだと言うように
刀を肩に掛けていた鞘に納め
スタスタと他の滅魔使たちが苦戦している
悪魔を倒すべく向かっていく。










     「…あ〜んの餓鬼ィ…!!」






煙草が入っていたであろう箱を握り潰し
狡牙は口の端を怒りに震わしている。
それを 軽く宥める瑞穂。
お陰で狡牙の怒りは、薄まっていく。






   「は〜〜。
    末恐ろしいガキだねェ…」





刀を抜く素振りが全く見えなかったぞ?



後ろ髪を掻きながら、狡牙も敵を
殲滅するため この場を離れていった。








     「……あの真輝斗が…?」







狡牙が居ない今、瑞穂は信じられないと
嘲笑を浮かべ 真輝斗や狡牙と同じく
敵の元へ向かい走る。














_
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ