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□Episode.49
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      「!、狡牙さんっ」





煙草の煙を口から吐き出しながら
歩いてくる狡牙に、気づいた男は
狡牙を呼び止めた。






       「おう。お疲れ」






擦り傷だらけの男に短く言う狡牙。








     「聞きましたか?魔獣の事」






そんな男から紡がれた言葉に、周りにいた
滅魔使の者は、皆 狡牙の元へ集まり
口論を始める。







     「俺も聞いたぜ」


     「うそ、私は聞いてないわ」


     「俺なんか、直に見たぞ」






口々に自身の周りでいう者たちに
静止をかけていく狡牙。




    「それなら、俺も聞いた。
     取り敢えず お前ら落ち着け」





頭を掻いて、溜め息を吐く狡牙を男は
焦るように問い掛ける。






   「瑞穂さんがその魔獣と
    関わっていると聞いたのですが
    それは、本当なんですか!?」







       『 !!? 』






その問いに、辺りは騒然とした。

口々に「どういう事だ」「本当なの?」と
動揺の色が広がっていく。








    「うるせェ!!!!」









大声で渇をいれる狡牙の額には、
青筋が浮かんでいた。



皆は驚き、話し声は止んだが
未だ目を見開いたまま、動きまで止まる。







    「噂話してる暇があるっつーなら
     怪我人 手当てしてる奴等を
     少しでも手伝えバカ野郎が!」








くわえていた煙草を歯で噛み潰し、
息を荒げた狡牙の威圧に、皆は即座に
声を揃え謝った。








       「…っ………」







ギリッと音を立て、歯を食い縛って
表情を歪ませていた瑞穂の姿は
皆の後ろに在った。







    「…はー、その事については
     後で皆を集めて話す。

     今は 後処理を済ませとけ」







周りに居る者達を押し退け、若干
附き気味だった瑞穂の肩を掴むと
狡牙は瑞穂を連れ、この場を去っていく。























    「気にするんじゃねェぞ、瑞穂。

     そりゃあ、魔獣と
     関わってます。なんてなりゃ
     大問題だけどよォ」






ガシガシと乱暴に、瑞穂の頭を撫で
笑う狡牙が言った、冗談混じりの話は
瑞穂には、軽く受け流して
聞ける物ではない。






      「…………はい。」






ただレオに対しての嫌悪感だけが
瑞穂の心を占めていた。















******









    「うわー、後ろの長かった髪、
     何処に置いてきたんスかー?


     なんか、ププ…、新鮮ー」







ジンの茶化すような言葉と、
堪えきれていない笑い声に 深傷を
負っている晴樹は、額に青筋を浮かべ
眉間に皺を寄せていた。





     「五月蝿い。黙れ。
      殴られたいのか…?」






拳を微かに震わせる晴樹を見ながらも
威勢を張るジン。





    「やれるもんなら、どーぞ?」





    「ジン、あまり怒らせてやるな。


     出血多量で死なれたら
     笑えないだろ?ハハッ」







笑みが絶えないジンを止める朝陽だが
最終的には笑っているため、説得力はなく
ジンに「朝陽さんだって笑ってますよ」
と口を挟まれてしまう。


そんな茶化されている晴樹の姿は
長かった後ろ髪が短くなり、朝陽やジンと
同じ短い髪になっていたのだ。








    「朝陽まで、ふざけるのも
     大概にしろ…ッ」






到頭、怒りを露にする晴樹を宥める
二人だが、静まる処か火に油を
注いでしまっている言動ばかり。






    「動かないでください。


     私は、素敵だと思いますよ。
     短い髪も似合ってます」







起き上がろうとした晴樹を、梓が止め
言葉を素直に告げると、溜め息を吐いて
諦めたように、再度横になる晴樹。








      「あ。オジサンだ」





歩いて来る存在に気づいたジンが
何気なく紡いだ一言は、その人物の
怒りを買ってしまう。








    「狡牙さん≠セろーがっ

     この、クソ餓鬼ィ!!!」






物凄い速さで向かってきた狡牙の鉄拳を
上から浴びたジンは、地に伏せてから
ピクリとも動かない。





狡牙の後ろから 静かに歩いて来る影に
佇んでいた真輝斗が気づく。






      「────瑞穂。」






何も考えず ただ茫然と皆を見つめていた
自分を呼ぶ真輝斗の声に、笑顔で応える。






    「瑞穂さん、
     怪我はありませんか!?」






       「ん、大丈夫。」





慌てた様子を隠しきれずに、瑞穂に
傷が出来ていないか 一通り見て確かめる
梓に、微笑を浮かべて言う瑞穂。






     「(…消えたよ、傷なんて)」







微笑みに隠れた心裏は、レオが自分の
身体を使って、現れた事によって
深かった傷や 擦り傷は、何事もなく
消えていたのだ。



極自然に作られている笑みは、偽物だと
静かに悟ったのは、朝陽や真輝斗だけ。







     「…瑞穂、そいつは誰だ?」







突如 真輝斗が口にした言葉により
皆の視線は 瑞穂の後ろに
着いていた者へと注がれる。




真輝斗が差した者は、確かに滅魔使の
証であるペンダントを身に着けている為
皆から警戒の色は見えないが
その見掛けない異様な雰囲気に、真輝斗は
その人物を睨みながら、尋ねる。




前髪で目元が隠され、鎖骨辺りまでに
伸ばした真っ直ぐな茶色の髪に、普段
アジトでは見掛けない姿をしていた。







       「 ッ……… 」





嫌悪感を僅かに表して、尻目に睨む瑞穂を
見た真輝斗は、目の前に佇んでいる人物を
再度、鋭く睨む。







      ────クスッ…




      「「 !! 」」






自分を凝視する瑞穂と真輝斗の二人に向け
小さく笑みを零すが、二人の瞳には
嘲笑っている様にも映し出す。















    「(あんたはあたしが
      必ず、消してやる…っ)」








怒りに震える手を押し殺し、瑞穂は
微笑みを携えて、前髪の極僅かな隙間から
覗く、金の瞳に殺気を籠め睨み続けた。




瑞穂たちの目前に居た男は
魔獣の獅子、レオだったのだ。









    「(消されるものか…。

      闇(われ)からは、)」













瑞穂の心裏を読み取ったレオの瞳は
細められ、暗い暗い闇が浮かび上がる。
















     ────決して逃れられぬ。



















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