D・W U
□Episode.50
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「わたしは、アリス。
あなたは……だれ?」
Episode.50
【夢の世界により】
「え‥‥‥?」
先に紡がれたのは、自身と同じ名。
それに亜璃朱は戸惑っていると
アリス≠ニ名乗る少女は不思議そうに
首を傾げた。
「どうしてためらうの?
わたし、知ってるよ────」
. . .
あなたは 亜璃朱でしょ?
「─────!!!」
当たり前の如く、言い当てた少女の瞳に
亜璃朱は異様に悪寒を感じる。
確かにその通りだ、と思っていても
でも何かが違う、と震えながら
胸を苦しそうに押さえる亜璃朱。
「私の名前、は……」
途切れながら口にする亜璃朱の脳裏に
自身を呼ぶ様々な声が過った。
「アリス♪」
「ア〜リスッ!」
「……アリス。」
「アリスちゃん」
「 アリス 」
白、颯、黒、マリア、そして…冬夜と
其々に違う笑みを浮かべて自分を呼ぶ声に
無意識に籠っていた胸元を掴む手の力を
緩めて、確信をついた様な表情をし…
「────私は、アリス…」
「違う!!!」
水面を見つめて呟いた名に、否定の声で
叫ぶ少女。
ビクリと肩を揺らし、ゆっくりと視線を
少女に向けるとその表情は 幼い顔立ちに
似合わず、酷く歪んだものだった。
「あなたは亜璃朱=I!
わたしがアリス≠ネのっ!」
悲痛な表情を浮かべ、少女の腕は
風を切り、辺りに舞い散る千切られた紙が
少女の叫び声に反応したかの様に、
勢いよく 風と共に吹く。
「どうして…─────」
ぽつりと零れた声。
亜璃朱は戸惑いを隠せずにいると
不意に横切る千切られた紙切れに
視線が奪われる。
その紙切れには、
何かが色づいていたからだ。
「しゃ、しん……?」
足元の水に浮かんだ紙切れ達を見つめ
気づいたのは、その無惨に千切られた
ものには 人が浮かべた笑顔があった。
ちらほらと舞い落ちる一切れ一切れには
他とは違うものが沢山と写ったものが。
「─────……!!!」
ふと真上から落ち、水に浮かんだのは
楽しげに談笑している様子の亜璃朱と
冬夜たちの姿が写った千切られていない
一枚が亜璃朱の瞳に映り込む。
それ≠ヘ写真というより絵に
近いものだった。
小さな身体を震えさせる少女の瞳に
亜璃朱が目を見開いて見つめる
絵が映った。
「─────どうして、
あなたがアリス≠チて
みんなに呼ばれているの」
顔を附く少女は、また小さく
ぽつりと言葉を零す。
浮かんだ絵は、水に溶かされるように
皆の笑顔や体に染みの様なものが色濃く
描かれた紙に水が含む。
白黒の絵は、それだけで滲み 描かれた
笑顔たちは歪んでいく。
「そこは、わたしの大切な
居場所だったのに…!!」
憎しみや恨みが籠った瞳は、亜璃朱を
深く貫き、強く抉った。
訴える様に叫んだ少女の声は
辺りに響くことなく、亜璃朱の心に
染み込み、焼きつける。
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