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□年越しを過ごそう!
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‡デッド†ワールド‡
年越しを過ごそう!
〜ヴェルバード達の場合〜
「明けまして、おめでとうございまーす」
何重に重なった年越しのそれは、其々の流れで紡がれた。
「一年もあっという間だったね」
「そうだな…、バカ犬関係の苦労しか思い返せないが。」
一家の次女のアリスが暖房に当たりながら言えば、長女である冬夜もしみじみと溜め息を吐く。
「はあ!?勝手にお前が窓とか家具とか大破させたんだろ!」
「こら颯、お姉ちゃんをお前呼ばわりしないの!」
コタツに潜っていた長男──颯は、聞き捨てならない、とソファで珈琲を飲む冬夜へ異論を掛けるが、直ぐ様 紅茶を淹れていた母──マリアに注意を受けてしまい、反論返せず項垂れる。
「主の被害は、颯絡みだよねぇ」
「…うん。」
「二人共、蜜柑もう一つ食べますか?」
コタツに入り、蜜柑を剥きながら呟いたのは次男の葵と末っ子三女の茜だった。そして、そんな二人を苦笑混じりに控え目な声を掛けたのは父──ルイだ。
「わーい!クロクロ、こっちの方が美味しそうだよ」
「あ。父さん、オレも蜜柑」
「私も食べたいな」
白が大袈裟に騒いだ為、気づいた冬夜やアリスも、ルイから蜜柑を受け取っていく。
「ところで、マリア!」
「お母さんと呼びなさい。」
「母さん、あのさ!」
ルイと談笑しながら紅茶を飲んでいたマリアに、颯が異様な程の満面の笑みで呼ぶため、マリアは訝しげに見ると、呆れた様にはいはい、と声を発した。
「お年玉、でしょう?」
「さすが!」
「お年玉!?僕にもちょうだいっ」
察しがいいと持て囃す颯だが、年越し早々、笑顔で手を出す子供の求めるものなど決まっている。騒ぎを聞き付け、白や黒まで寄って集り。
「颯には五千円。葵と茜には三千円ね」
「サンキュー!」
「ありがとーっ」
「…ありがとう。」
それぞれに違う小袋に入ったお金を手に、子供達は嬉しそうに笑う。
「冬夜さんとアリスさんには、はい。」
「ありがとう」
「ありがとう!」
コタツに入り、テレビを眺めていた二人にはルイから用意され、渡された。中身を見る冬夜の袋を盗み見る颯は、見えた札に絶句して指を差す。
「な、ずっりー!なんで夜だけ一万!?アリスと俺は五千円なのにっ」
「長女なんだから仕方ないでしょう」
自分を指差す颯の手を不快そうに叩き、それでも颯は騒ぎ続けるのをマリアは面倒そうに息を吐いた。
「そうそう。二番目の自分を恨むんだね?」
不意に此処にはない声が響くと、僅かな冷気が声の主と共に部屋へ入ってくる。その姿を視界に入れたと同時にげ、と颯は顔を歪めた。
「あら、ウィル。明けましておめでとう」
「あけおめー」
「ちょ、何勝手に入ってきてんだよ!?帰れ家に!」
軽快な口調でマリアに返す近所に住むウィルへ外を指差し促すが、容易く無視される。
「やあ、アリスに冬夜。元気かい?」
「こ、こんばんは…」
「たった今、気分が悪くなった。」
慣れた動作で、素早くコタツへ潜り込んだウィルは爽やかな笑みを浮かべ、眉を潜める冬夜と驚いた様子で返すアリスに話掛けると、背後からのし掛かる重み。
「何しに来たのー?」
「えー?それは当然、」
「お年玉催促…」
黒を間に、背にのし掛かったのは白だ。二人分の重みに机に伏せながら、ウィルは尚も笑顔を携えて人差し指を立てた。
「その通り。よく分かったね、茜?」
「む。クロを名前で呼ばないでよ!」
「嫉妬は醜いと思うな?白くん」
その先を覗き込んだ黒が呟いた為、ただ薄く笑んで頷く。しかし、ウィルが黒をあだ名で呼ばなかった事に、白は頬を膨らませて拗ね、体重を倍に掛ける。間で苦しそうにする黒を、この際見なかったことにしながら。
「──あ、お母さん。見て見て、」
「どうしたの?アリスちゃん」
ウィル達のじゃれ合いの始終を呆れ半分に眺めていた夜の隣で、テレビを見ていたアリスはふと表示されたそれに、思わずマリアを呼ぶ。
「家事で役立つ簡単テクニック、だって」
「あら、便利ね。ルイ、」
「はい。メモしておきますね」
アリスがテレビを指差して促すそれを声に出して読み、流れる映像を見てからルイへ声を掛ければ、既にルイはマリアの意思を汲み取り、笑顔を浮かべていて。さすがね、とマリアも微笑む。
「───ハッ!!」
気持ち良さそうにコタツで眠っていた颯は、前触れもなく目を覚ます。
「年越しそば食うの忘れた!」
──今年も一家は元気です。おしまい。
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