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□Episode.57
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     「おや、アリスちゃん。


      起きたのかい?」










昼寝から目覚めたアリスの瞳に映ったのは
調理場へ立つ…優しく微笑む老婆だった。



























     Episode.57
     【光に阻む暗闇】






























    「おとなりの、おばあちゃん…」








瞬きを一回、瞼を擦る間も
アリスを見て穏やかに微笑む老婆が居る
場所は紛れもなく、母親だけが何時も
佇んでいた筈の柔らかな陽が射し込む所で。








    「ど、して…おばあちゃんが…?」








寝起きの頭で考えながらも、状況が掴めず
首を傾げて訊ねるアリスを老婆は
寂しげに零す。








    「アリアさん…、アリスちゃんの
     お母さんはね、用事があって
     暫く家を出るらしいんだ。

     少しの間だけど、お婆ちゃんと
     一緒に過ごしてくれるかい?」








敷かれた布団の上で、未だに困惑する
アリスの髪を撫でながら言う。






     「、────やだっ」






乾いた音を立て、皺の多い手を払い退け
アリスは無我夢中で家を飛び出した。




老婆の自分を呼ぶ焦り声を
背後に聞きながら。


































    「────おかあさんっ



     どこっ、どこにいるの!?」








無我夢中で走り続けた先は、アリスが
遊び場にしている森の中。



いつも暖かい日向に包まれている森は
不穏な空気に包まれ、今は薄暗く
気味が悪い。








     「おかあさん…っ!

      …どこにいったの?



      おいてかないで…」








アリスの母、アリアはいつもどんな時も
アリスの傍にいた。微笑っていた。



前にも一度だけ、昼寝から目覚めた
アリスの前から居なくなったことがある。


しかしその時は、アリスが眠っている間に
と森で木の実を採っていたのだ。

後に泣きじゃくるアリスを見てから
もう離れることはなく、いつも一緒に。




そんな記憶を頼りに、アリスは
森中で母を呼び叫び 探し歩く。



どんなに疲労が出ようと、探し続けた。

取り除けない異常な不安感が
ずっと襲ってきていた為に、アリスは
足を止めることが出来ないまま。














何時間も経ち、陽が傾いた頃
突如 膝を落とし座り込む。



涙は渇れることなく、一滴と落ちていく。

底深い闇がざわざわと駆り立てる錯覚が
アリスを襲う。








     「ひとりに、しないで…っ」








ぎゅっと目を瞑り、無意識にもふと触れた
首のそれに、目を見張った。




握り締めたそれは、いつかアリアがくれた
花の首飾り。



すると突然、瞼の裏にアリアの姿が映る。

消えてしまいそうな母の姿を
目の前に映しながら、手探り寄せるように
震える手を伸ばす。






    「みつけた、おかあさん…!」






笑みを浮かべて、必死に手を伸ばしても
アリアには届かず、身体も動かない。




微笑を浮かべていたアリアは、急に
哀しげな表情を浮かべ、背を向ける。






どうして、と焦りを覚えながら何度も
アリスはアリアの名を呼び続けた。


アリアの足は止まる事を知らずに
徐々に離れていく。








    「やだ、いかないで

     おかあさんっ まって…!




     ひとりぼっちは、いや!!」








アリアを呼ぶ度、泣き叫ぶ度
母の背が離れていく度



アリスの顔は悲痛に歪む。



手を伸ばしても、声を上げても、泣いても
アリアは小さくなっていくだけ。




そして、それは到頭、呆気なく消えた。




















      「─────……」










消えた瞬間を、涙で歪んだ視界に
焼きつけながら アリスは漠然と
目の前の闇を見据えた。



木々が風に揺らぐ度、黒い影も揺らぐ。


























       「 うそつき。」



















誰に聞かせるでもなく、澄んだ幼い声で
たった独り 呟いた。












    「だいすき、っていったのに


     いっしょにいるって
     やくそく、したのに……




     ─────うそつき。」












ぽたり、純粋なそれが心から溢れた時。








       ザワッ………!!








森から吹き抜けた風と共に、真っ黒な影が





アリスの小さな体を貫いた。


















風が止むと同時に、分厚く陽を覆っていた
雲が晴れ、明るい陽射しが地上を照らす。



柔らかな木漏れ日が注ぐ森の中に
幼き少女の姿はない。





















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