D・W U
□Episode.62
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ザシュッ!!
歪な形をしたそれは、無惨に切り捨てられていく。
地の上を躊躇いなく駆けては跳ねる水音。足を止めることなく、勢い任せに立ちはだかる影達を、容赦なく切り捨てた。
甲高く響きながら鋼鉄なそれと相打てば、手に強く握られた刃は容易く折れ、硬い地面に刺さる。
辺り一帯を占めるは、刃が打ち合う様な音と人間のそれや、金切りに近い断末魔。
「っは…、」
その中心で傷だらけな手に再び十字架を取り、振り返り様でそれを振り上げた。
「───うあ゙ああああっ!!」
ザンッ━━━━!!!
Episode.62
【砂塵に還る群像】
砂塵が吹き込める周辺に人の影は多くも、気づけば一つ、また一つと消えていくのが嫌でも瞳に映り込む。
足元には人の形が転がり、拡がり続ける黒いそれと、既に一体化していた。
荒い息を調えながら目線を落とせば、黒い瞳に映り込んだ黒々とした液体の溜まった地面。視界一杯に映るそれは、本来の地の色など一切見せない。
自身の靴すらもその液体が、ドロリとこびりついていた。
血が昇っていた頭が冴えていくと、意識の隅にすら介入させなかった噎せ返る臭いが唐突に鼻を刺激し、今更に嫌悪感を抱く。
「きゃああああああっ!!!」
突如 耳に響く、悲鳴。
それは騒音だらけのその場には、気づくことも困難な程に小さなものだった。
しかしそれが聴こえたと同時に、声のした場所へ一寸の狂いなく、正確に駆け出す。
両手に其々刃を握ると、視界に腕を負傷して座り込む女とそれを攻撃する寸前の悪魔を映す。
一瞬の出来事だった。
鋭い爪が女の腹を貫こうとした直後、背後から二つの十字架が悪魔を切り裂いたのだ。
宙に浮かぶ悪魔は、自身の命を奪った相手を視界に入れること叶わず、塵と化す。
「っあ…、」
悪魔が消えて、女の眼に十字架を手に佇む姿が映り、同時に恐怖していた表情に安堵が浮かぶ。
「ありがとう」
感謝の一言を告げ終えると、傷を負いながら女は剣を取り、戦場へ躊躇なく戻っていった。
「………」
そんな女の姿など目に入れず、十字架を持つ腕を力なくぶら下げ、立ち尽くす。
「───おい、」
ガギィィン!!!
不意に肩に乗ったそれに反応して、瞬時に刃を背後へ振りかぶるが、そんな攻撃は同じ刃にて封じられた。
「、」
振り返った事で相手の顔を認識すると、無意識の中で力を緩める。
「真輝、斗…」
背後に在ったのは、返り血を浴びて、所々に傷を負いながらも冷徹な眼で見下ろす、真輝斗だった。
「頭を冷やせ───瑞穂。」
低く発せられたそれに、口を閉ざす───瑞穂。
「自分の姿、鏡で見てみろ。」
十字架を自身の持つ刀で払い除け、眼鏡のレンズ越しに目を細めると、真輝斗は目先の瑞穂を見据える。
頬や衣服には拭われずに乾いた黒い返り血。何より瞳に光は宿っていない、冷えきったそれ。
それが真輝斗の目に映る、今の瑞穂の姿だった。
ぽたぽたと十字架を染める血が、血溜まりに伝い落ちていく。
ふと真輝斗が、鞘に納めた刀の柄を握る。視線は肩越しに背後へ向けられていた。
「……ははっ」
そんな真輝斗を前に、髪に隠れた眼差しの代わりに口元には深く笑みが浮かぶ。
ザシュッ━━━━
目前にある十字架に瞠目する真輝斗は、そのまま目線を後ろへ寄越す。
其処には、胸に十字架を貫かれながら、真輝斗へ手を伸ばしていた悪魔の姿。
「何言ってんの、真輝斗」
悪魔は弾ける様に塵となり、構えたままの瑞穂の笑みを含んだ声が、真輝斗の耳元で響く。
「充分、冷めきってるよ」
口角をつり上げ、挑発的な眼差しが目上の真輝斗を見据えた。
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