dream story

□消えない面影
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    「ねっ聞いて!私…────」















     好きな人が出来たんだよっ















そう言ったアイツは、とても嬉しそうで。



初恋を祝福しながらも、心の片隅で
俺はアイツが好きになったヤツを恨んだ。










    「あのね、私…先輩に
     告白しようと思うんだぁ」










照れ臭そうに、幸せそうな笑みを浮かべて
相談相手の俺に話すアイツは日に日に増す
気持ちを相手に伝える決心をした。










    「……そっか。頑張れよ。
     精々、失敗しないようにな」










茶化す俺に、アイツは怒りながらも
歓喜した笑顔をしたまま。


その表情が茫然とした虚ろなものに
変わってしまうのは、この数時間後。










    「どうしよう……。



     先輩、死んじゃった…っ」










毎度の事の様に、幼なじみの部屋へ
飛び込んできたアイツの崩れる姿に
俺はただ茫然と…────






その姿を見つめることしか、出来なかった。



























     「おっはよー!!!」








元気の良すぎる挨拶に、教室に居る
皆は笑って返す。


挨拶が一通り止んだ所で 元気一杯な
幼なじみのアイツが席に着く。








    「珍し。今日は早いじゃん!
     いつもギリギリの遅刻魔が」








意地悪く口を緩めるコイツに
無駄な悪態をつきながら、俺は
今日の担当である日誌を捲っていた。






    「あ、そっか。今日 日直だ」






    「お前もな。」「えー、うそだ」








心底嫌そうな不細工女に、黒板の端を
見るよう促す。ああ、見事に歪んでいる。






    「あー、今日用事あるんだよね」




    「うそつけ、暇人が。」








役目から逃れようとする愚かな女に
間髪入れず答えれば、ほら。
もう言い返せやしない。今日一番の勝利。





























あの出来事から一年。
始めこそアイツは部屋で塞ぎ込んだまま
外は愚か、部屋を一歩も出ることは
なかったらしい。アイツの母親情報だ。



一週間もすると、何事もなかった様に
明るく登校してきたのを、事情を知る
クラスメイト達は何も言わず迎え入れた。



アイツの母親や皆や担任は、俺が何度も
アイツの家を通い、登校を促したからだと
言うが、そうじゃない。


俺は何も言っちゃいないし
何もしていないんだ。

学校に来いとも、事故で死んだ先輩の
ことを慰めた訳でも。何も、してない。





ただ、アイツが一人で
乗り越えただけだと気づいてほしい。












    「えっ、それ本当?」






一つ、放課後の教室に響いたのは
女子生徒の声。






    「本当だって。
     同じクラスだったんだから」






次に聴こえたのは、低めの女子生徒の声。


こそこそと話すそれは、正直言って
鬱陶しい。本当に女子は噂話が好きだな。





そう思いながら、教室に入るに入れず
聞く耳を立ててしまっている俺は何なのか。


次の瞬間、耳についた一言に
目を見張った。








    「…さんがさ、去年好きだった
     バスケ部の先輩が事故で
     死んじゃって 少しだったけど
     学校休んでたんだよね。」








名前がよく聞き取れなかったけど
アイツのことを、言われてる。








    「えー、彼氏でもないのに?」






    「そう。初恋なんだって。


     正直さ、毎日の様に皆に
     先輩の話しててさぁ…何か」






    「え、彼女気取りのノロケ?


     でもわざわざ休むかなー?」








だよね、なんて言って小声を忘れた
会話に何かが込み上げてくる感覚。



話してるソイツはどうだか知らねぇけど
皆は自分達から話を促してただけで
アイツが無理矢理 しつこく
話してた訳じゃない。

どっちかと言うと話したがらない性格だ。





……なのに、








    「可哀想とか同情引いてそう」




    「わざと明るく振る舞って
     余計に…みたいな感じ?

     なんか嫌なヤツじゃん!」








鬱陶しいな。捏造してんなよ。



ああ、ムカツク。



次に出た一言は、俺を反射的に動かす。










     「「ウザイよね」」 ガラッ










放たれた言葉と一緒に扉を開ければ
二つの驚いた視線と、ただ無言で
二つの醜い顔を見据える俺の視線だけが
静かな教室を占める。








     「やば、」「帰ろっ」








呆気に取られていた女子二名は
不自然に目を逸らして、そそくさと
席を立ち 俺の居る場所とは違う
もう一つの扉から教室を出ていった。








    「……教室、入らないの?」








気配を感じて、尻目に見れば
首を傾げた噂話の主が訊ねてくる。





入るよ。そう言って入ると続いて
教室に足を踏み入れてきた。



















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