Gift
□再会がよんだ…
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がやがや、ざわざわ。
大きくも小さくもない一軒の中華料理店は、騒がしく大勢の客で賑わっていた。
真っ昼間から酒をあおる中年男性の団体の笑い声や、注文の飛び交う店内で、がつがつと忙しなく食を進めている少女。そして、それを心配そうに不安げな面持ちで見守る少年。
「ぷはーっ あれ、透は食べないの?」
手元に置かれた水を飲み干し、勢いよくそれを机に叩き置く少女は、向かいに座る少年を見る。
「いや、俺は良い…。それより弥生、その辺で」
「そう?相変わらず、透は少食だね」
止めておいたら、そんな透の言葉を遮って言い退ける少女、弥生の傍らには何段にも積まれ、広げられた皿たちが。
弥生の言葉に、これが普通だから…と顔を青ざめる幼馴染みを尻目に、弥生は無邪気に振り返り、厨房に向け手を上げた。
「すみませーん!炒飯追加で!!」
「あ。こっちも炒飯追加でー」
そう店員へ呼び掛ければ、厨房の奥から店内の騒音に紛れて明るい返事が返ってくる。
しかし、弥生はそんな声は耳に止めず、不意に重なった同種の注文の声に耳を傾けたのだ。
「え?───って、あ…!」
「…んむ?」
視界に入ったその姿に弥生、そして透までも目を見張った。
人混みに埋まるように、一つの机を囲んだ其所に居たのは…弥生たち同様、男女の二人組。
一人の少女は、今まさに餃子を口に含もうとした所で固まり、こちらを見る。
もう一方の少年は、気にも止めず、うまく顔を隠す紙の隙間から、マイペースに麺を啜っていた。
「時世さん!羽椎くんも…!」
思わず口にしたその名前。弥生と透の視界に映る人物たちは、今となっては馴染みある面子であった。
* * * * *
「ったく、どこに俺を呼び出す必要があるんだか…」
見るからに不機嫌そうな顔をして商店街を進む莉央は、肩に掛けた鞄を掛け直し、ふと何気なく視線を横へやった。そして僅かに目を丸くする。
「ああ、最悪だ…(このままアイツ等の基へ行けば、必ず…奢らされる!)」
重々しく溜め息をつく少年の背後から手が伸ばされ。
「何が最悪なの?」
「!?」
不意にぽん、と肩に手を置かれ驚いた少年…秀臣は、反射的に背後の人物へ振り向く。
「どーも。…久しぶり?」
愛想笑いを極自然に浮かべた莉央の姿に気が抜けたのか、秀臣は半ば呆れた表情で返事を返す。
「日向か。久しぶり…でもない気がするが?」
「そうだっけ?確かうちの文化祭以来だよね。」
そうだな、と秀臣が踵を返して歩き出せば、何気なしに莉央もそれに着いていく。
「俺もこっちに用があるんだよね。───ところで、秀臣くんは何処に向かってるの」
「ちょっと呼び出しが掛かってな…」
まるで秀臣の疑問に気がついたかの様に話す莉央がふと尋ねると、目的を思い出した様子でげんなりとした表情を零す秀臣。
「それは奇遇。俺もお呼び出しなんだ」
「へぇー…」
笑顔とは裏腹に、気だるさを含んだ声を莉央は出す。
「………」
「………」
世間話とも言えない会話は容易く途切れ、二人の間に沈黙が流れた。
秀臣はしまった、と言いたげに目線を横に逸らしながらも、この後に起こるであろう自分への理不尽が心配でならなかったのだ。
対して莉央は、この沈黙自体を重く感じては居らず、欠伸を漏らしては青く澄み渡った空を呑気に眺めるばかり。
「「あ、ついた」」
「「───ん?」」
やっと着いた目的地に、声を漏らしたは良いが、偶然重なったそれに思わず顔を見合わせた。
ガシャーーンッ!!!
次の瞬間、横切った物体と大きな音に、二人はゆっくりと振り返る。
二人の視線の先には、若い男性が伸びた様子で背後の建物へめり込んでおり、目的の店の中から飛んできたと思われる光景があったのだ。
幸い、背後に立つ店は今は閉店中だったため、被害は閉じられたシャッターに窪みが招じたことのみ。
「おい!大丈夫か、たっつん…!」
「てめー、このアマ!たっつんに何しやがんだ!!」
少しの間があった後、店から飛び出してきた若い男二人が、仲間であろう伸びた男に駆け寄り、出てきた店を睨む。
「そちらが言い掛かりをつけてきたんじゃないですか!」
そう言って、またも同じ店から飛び出してきたのは────
「……弥生?」
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