D・W
□Episode.27
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「アリスちゃん…?」
問いかけ続けるマリアの声だけが
部屋の中に響き渡り消えていく───。
Episode.27
【脳裏に映りし幻影】
━━━━ピチャン
水の跳ねる音に、亜璃朱は閉じていた
瞼をゆっくりと上げ 静かに瞬きをする。
「────……、」
目を開けて入ってきたのは、真っ白な世界。
その真っ白な世界に広がる水面の上に
私は居た。
ベットに眠るように水面の上で。
身を起こす事もせず、その不思議な感じに
妙に動けなくて、水面に背を、体重を
預けて体を仰向けにする。
────此処は…?
そう考えに耽ろうとしたけど、何故か
いつもの冷静な頭が働かない。
何も考えられない。目を開けているだけでも
しんどくて、私は自然と瞼を下ろす。
一度 同じような事があったけど
その時は全てが黒に、闇に
染まっていて…とても『怖かった』。
だけど、今は 全てが白に、
光に包まれている。
どこか心の内に安心感を覚えて
私は そのまま目を開けれずに…
そうしていると、私の体は
水の中へ引き込まれていく。
勿論それは私の意思で動いてる訳じゃない。
そもそも 自分から少しも動かずに
水の中へ吸い込まれることなんて
出来る訳がないのだから───。
━━━━ズズズ
低く鳴って 私を引きずり込もうとする
水に、何故か『怖さ』なんてモノは
微塵も感じなかった。
ただただ、驚く事もしないで
私はそれに委ねる。
引き込まれていく体に、少し足りとも
危機感なんてものは起きない。
━━━━ズプンッ
気づくと完全に水の中へ呑み込まれていて。
そして、水の中なのに息が出来ることに
また不思議な感覚に陥る。
水の中で音とというモノは聴こえない筈。
だけど、流れていくような静かな『音』に
落ち着いてしまって、静かに笑みを零す。
『────そのまま…
体を、『わたし』の中へ委ねて…』
その幼げな女の子の声に、閉じかけていた
目を勢いよく開ける。
「誰…?」
口を開いて 声にするとゴポと口の中に
あった空気が口から溢れる。
金縛りにあったように動かない体は
気にかけずに、ただ声の主を知りたくて
問い続けた。
だけど、返ってきたのは『返答』じゃなくて
『“ ”を助けなくちゃ…』
一瞬響いたノイズと焦るような幼い声だけ。
どこか放っておけない声色に、もう一度
声をかけようと口を開くけど、
キィーーーーン…
甲高い耳に障る音に、思考回路が止まる。
だから、気づけなかった。
重く鳴り響いていた、後ろからする低音に。
「っ────」
激しく私へと押し寄せる水に
目が開けられなくて、成す術もなく
流れてくる水に体を任せていた。
その時、流れる水と共に脳裏を掠めたのは
映像のように映った、
左目が黒いものに侵され、苦しむ夜の姿と
純白に包まれた見知らぬ女性が
静かに涙を溢す姿────
『“ ”……』
意識が途切れる最中に聞こえてきたのは
また あの幼げな少女の
悲痛に呟く声だった────。
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