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□あといのあいだがら
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(大体は、そうだ。)


(あんたが悪い。)


するりと手の内から落ちた携帯電話。

それからはまだ憎ましい男の声が漏れていた。


(あぁ、そんなバカな)


【あといのあいだがら】



なんともまぁ、汚い空だ。
薄い黒を混ぜられて、濁っている。

(今日雨降んのかな、
まぁ、いいか。)

無気力に浮かされた俺の体はどうも、思考さえもストップさせたいらしい。

このまま巡回に行けば完全に雨に降られるのに、俺の手に傘は無い。

「沖田さん」

後方からの声、
声の主は分かっている。

ただ後ろを向くのさえだるい、本当にだるい。

俺はそのままの向きで
「なに」と短く言葉を返した。

「何じゃなくて、ほら」

山崎。
俺に傘を突き出すと、にこりと笑う。
あぁ、優男。


「今日巡回俺とですよね、珍しい」

「そうだな、今日からずっとだな」

「今日からずっと?」

土方が、決めるから。

あいつは多分俺を避ける。避け続ける。


「あぁ、土方さんこの時期忙しいだろィ?」

「あ、ぁあ、はぁ」

そうだったか?という表情を作ったあと、複雑そうに「あぁ!そうでしたね」とまた笑ってみせた。





(こいつは、賢い)









山崎と並んで歩き始めて、暫くしてからぽつぽつと雨が降りだした。


「沖田さん、傘さしてくださいよー」

隣で傘を広げながら山崎が話しかけてくる。

「いや俺はいいや」

「風邪ひきますよ」

アンニュイな気分をひきずって、歩く。

「あぁ、さみぃなぁ」
「寒いですねぇ、もう春も半ばだというのに」
「雨のせいだ」
「ほんとですよ」

山崎がそっと傘に俺を入れようとしてくるからそれをはらった。

「やめなせ」
「風邪ひきますって」
「そんときゃ看病してくれィ」
「な」
仕事増やさないで下さいよ〜だなんてぼやきながら、山崎はにやけている。

「ザキ、俺行きてぇとこあるんでさァ。先に屯所戻ってて下せェ」

「どちらへ?」

「ちょっとな」

「…分かりました」

じゃあな、とひとつ言葉を渡して俺はまたふらりと歩を進めた。
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