■ Books Maison ■

□■ジュンス妄想■ 「You Are Not Alone」
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昼の二時。
何気なくつけたテレビ番組はいわゆるワイドショーで、夕飯の下ごしらえをしながら聞き流していた。

大したことがないような作業でも、気は抜けない。
たまに思う。
誰か「お疲れ様」って言ってくれないかな。
シチューを煮込む鍋の隙間から勢いよく水蒸気が上がる。

なんとなく出た溜息が部屋の中で広がっていく。
こうしてどのくらいの「溜息の粒」がこの部屋に積もっていくんだろう?

彼、今日こそ本当に夕飯を食べるのかな?
ここ最近、ドタキャンが多すぎる。
作りすぎたシチューほど空しいものなはい。

ローリエを取り除かなきゃ、と菜箸を取り上げた瞬間にドアチャイムが鳴った。
きっとお隣さんだ。

「はーい!!」

三ヵ月前に引っ越してきた隣の韓国留学生ジュンスくん。
最近は近所付き合いも深まってきた。
回覧板でも回しに来たかしら?

「すみませーん!ちょっとお皿貸してもらえませんか?」

どうやらたった一枚しかなかった深皿を、昨夜割ってしまったらしい。

「あれ?これってカレーの匂いですか?」

「え?カレーの方がいい?実はシチューなの。中身はどっちも同じようなものだけどね。」

「え?そうなんですか?」

相変わらずきれいな肌。
そして、彼のこの声・・・素敵なのよねぇ・・・。
背も高いし、礼儀もわきまえてるし。

たまに大笑いして私の肩をバンバン叩くのも面白い。
この間もハマってるK-POPの話をしたら、腕の中に手をすり込ませて甘えてきたっけ、この人妻に。
ちょっとどこか天然入ってるのよね・・・。

その時、タイミング悪く私の携帯が鳴った。

「あ、ちょっと待ってて!」

「また旦那さんじゃないですか?」

「え?」

「この間も僕と話してる最中に旦那さんからメールが来たじゃないですか。」

「そうだっけ?」

「旦那さん、夏海さんのこと監視してるの〜?やきもちやきだな〜」

手で「しっし、そんなんじゃないから」と「でもちょっと待ってて」いうジェスチャーをすると、携帯のボタンを押した。

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今夜会議で遅くなるから、晩飯いらない。

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「まーーーたーーーーー?!」


私は最近続く夕食のドタキャンに相当頭にきていたのだ。

私は携帯の電源ボタンを力いっぱい押して切り、それをエプロンのポケットに仕舞い込んだ。

「ったく・・・・・」

「またですか?晩御飯いらないって?」

「こないだもそうだっけ?そうなんだって・・・。」

「なんか、もったいないですね、シチュー。」

「え?あぁ・・・そうだ、これカレーにしちゃおうかな?食べる?今日食べていきなよ。もったいないし、一人で食べるのもうヤダ!!」

怒りにかまけてとんでもないことを喋っている自分がいた。

「いいんですか!?やったー!実は今日の夜は残り物を片づけようと思ってたんですけどさっき冷蔵庫覗いたら、いやな匂いしてて・・・。」

「だめよ、そんなの食べたら!おなか壊しちゃう!」

私の怒りと興奮度はますます募り、どこかはけ口を探しているようでもあった。

「あ・・・でも今日の夜バイトがあるから早めに食べなきゃいけない日なんです。」

「ん〜じゃあ五時半とかそんな?」

「はい。」

「じゃあ、五時くらいにうちに来て。準備しとく。」

ドアがバタンと締まり、私の手には回覧板だけが残された。
部屋の中にまたワイドショーの音が響き渡った。

「なんかもう、やんなっちゃったな・・・これじゃあおばさんだよ。旦那が帰ってこなくて、寂しくて隣の若者の世話をし出すおばちゃん・・・。」

涙が頬を伝い、鼻がツンとした。
ティッシュ箱からティッシュ数枚取り出すと、思いっきり鼻をかんだ。

よし、カレーにするぞ。

シチューのルーを箱に片づけて、買い置きしてあったカレーの箱を取り出した。
ついでにサラダも作ってしまおう。

カレーができたら着替えるんだ。
こんな普段着脱ぎ捨てて、この間自腹で買ったワンピ着てみよう。
タンスの肥やしはもうたくさんだわ・・・。

私はルーを箱から出して割リ入れた。
シチューの予定が今日はカレー。
気になる男の子の好みに合わせたこの日が、私にとっての大切な記念日になった。
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