■ Books Maison ■
□■チャンソン&ジュンス妄想■ 「cafe@2pm」
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ねぇ、この間話した韓国カフェに今度行くんだけど、一緒に行かない?」
キッチンで夕飯の下ごしらえをしている最中に、この間の日本人会で久しぶりに会った友人がSMSを送ってきた。
「ナニそれ?」
「仕事関係なんだけど、半分遊び。とにかく来て。面白いよ。」
メグミはいいな。
まだ独身で、しかも業界関係でバリバリ仕事してて。
こっちは・・・いろいろあるんだから・・・・。
私は溜め息ををつきながらスケジュール帳をめくった。
来週の土曜日のランチか・・・行けなくはないな。
その日は丁度夫と子供たちが川釣りに出掛ける日だった。
最近は男同士で出かけてくれるから自分時間も作れるようになったし・・・。
だから私はメグミにさっそく返信した。
「いいよ、行く。でもメグミの奢りでね。」
そして土曜日。
若者たちで賑わう繁華街をほんの少し外れたところにそのカフェはあった。
cafe@2pm
普通のモダンなカフェ風に見えるが・・・。
「アキ、こっちこっち!!!」
「あ、メグ!おはよ。で、ここが韓国カフェなの?普通じゃん?」
メグミはクスッと笑って鞄の中から雑誌を取りだした。
「ほら、見てよ。この記事。私んとこのヤツ。」
「あ〜〜メグミがアートディレクションやってる雑誌の?」
「まぁアートディレクションっていっても全部やってる『何でも係』のようなもんなんだけどね。
そうそう、ここの記事だよ。あの子ら・・・ギャルソンやってる子達。
彼ら韓国系の子達なの。」
ここはとあるアジアの経済発展都市。
メグミとは、この街の日本人会で出会って仲良くなった。
そして今メグミはアジア全域で成功を収めつつあるK−POPにハマっている。
「おなか減ったよ、メグ。話はその後!」
韓国カフェと言っても食べ物が韓国料理なわけではない。
メニューはウェスタンスタイルの「カフェメニュー」で、素材が新鮮で素敵なカフェだった。
しかし素敵だったのはそれだけではなかった。
「ほら、あの子もあの子も・・・・黒シャツ黒ズボンの・・・カフェエプロンしてる子達。」
もぐもぐとアボカド&サーモンサンドを頬張りながら周りを見回す。
「んぐんぐ・・・え〜〜っと・・・」
カフェの角テーブルで地元の若い女の子二人がキャピキャピ騒いでいる。
そしてその隣に背の高い(と言っても全員高いのだが)、横顔がきれいな男の子が一人。
「チャンソ〜ン、私グレープフルーツジュースがいいなぁ〜」
女子たちが甘い声で注文をしている。
ふぅん・・・チャンソンね・・・。
「あ、いたいた!ニックン!!!今日取材あるからあとで時間作ってね!」
遠くにいる西洋人風なギャルソンに英語で声をかけるメグ。
「あの子も韓国系なの?」
「違うよ、あの子はタイと中国系アメリカ人のハーフ」
「へぇ〜〜モデルみたいだね〜」
「あと、あの子がウヨンで、あの子がジュノ。」
「なんか似てるね、あの二人。」
「そうそう、で、あっちがテギョンで、こっちの袖を腕まくりしてるのがジュンス。」
「あ〜〜〜名前覚えらんないわ。」
「もぉさ、アキ女終わってるんじゃない?」
「なによ〜それ〜!!!」
「ま、いいわ。二時になれば、ちょっとそのだらけたあなたのその脳みそが爆発するわよ。」
「ランチの後ってこと?」
「そうね。」
「その前に取材してくるわ。」
「いってら〜〜〜。」
メグミは重そうなバッグを持ってカウンター脇のスタッフルームらしき部屋に入って行った。
取材を先に終わらせてからゆっくりとするつもりなのだろう。
「ふぅん・・・韓国系の男の子ね・・・。」
よく見ればひとりひとり個性が違う。
韓国系男子は今まで良く知らなかったが、言葉も丁寧で礼儀正しいようにも見える。
姿勢もいいし、躾もちゃんとされているらしい。
でも少しかわいいところもあるのね。
あちこちでじゃれてて子犬みたい・・・。
そして午後二時近く・・・。
「お待たせ!!さ、始まるわよっ!!!」
あっという間に小さなステージが出来上がり、その上にギャルソンだった六人の彼らが上がり始めた。
「きゃーーーーーーーーーーーーー!!!」
黄色い歓声が響く。
そしてギターの音も。
「これね、『10点満点で10点』っていう曲なの。」
「へ〜ノリがいい曲なのね。」
女の子たちは立ち上がり、お気に入りの男の子に向かって手を振る。
曲が最高潮に盛り上がると全員が総立ちで両手を上げて一緒に歌いだした。
「すごいでしょ?彼ら今ちょっと話題になってるのよ。」
「あ、なんかすごいね、ほんとに・・・でも私、ついていけないかも・・・」
少し弱気になっていたものの、実は一人の男の子に釘付けだった。
確か・・・チャンソンっていう名前・・・?
「でもね、本当にすごいのはね・・・あ、やめとこ。」
メグミがもったいぶって言う。
「なになに〜?私には無理って言い方だったけど、なによぉ〜?」
「・・・フフフ・・・こんなにフレッシュそうな彼らの裏の顔・・・私、知ってるの・・・」
「・・・なにそれ・・・?どう言うこと?」
「アキさ・・・来週土曜日の夜、家を空けられる?」
「え?ん〜〜っと・・・旦那と子供たちはキャンプで泊りだけど・・・どうして?」
「いいから、また私に付き合ってよ。いいもの見せてあげるから。」
「だからなに〜?ナニナニ?教えてよ〜!!!」
くすくすと笑いながらメグミはアキの耳に唇を近づけてきた。
「あの子、気に入ったんでしょ?あの子のこと、もっと好きになるわよ。」
「やだっ・・・・。」
なぜか顔が赤らんだ。
メグミには、なぜかなんでもバレテしまう。
(私そんなにジロジロ見てたのかな、あの子のこと・・・。)
横顔がきれい。
鼻が高くて、唇の形なんて最高。
目が優しそうで、でもなにか秘めてそうな瞳。
ちょっとだけ目にかかる黒髪は少しアンニュイで・・・。
笑うと可愛いし子犬みたいだけど、でもあの子の「裏の顔」だなんて・・・。
ちょっと見てみたいかな・・・?
「暇だからいいよ。付き合ってあげる。二人だけの女子会って感じ?」
「クスッ・・・そうね・・・そういうことかしら・・・。」
そうよね、たまには私も家の「野郎達」と離れて女らしいことしたいわ。
次の土曜日には思いっきりおしゃれして来よう。
そうだ。
下着だってこの前内緒で買った例の新しいのを着けて来よう。
こんな高揚感久しぶりな感じ。
来週末が楽しみになってきたわ。
店を出た後も女の子たちの歓声が耳について離れなかった。
そしてその週初めも週中も、あの男の子の顔がちらついて気もそぞろな状態が続いた。
水曜日、木曜日と過ぎ、金曜日がやってきて、そして当日の土曜朝。
独り息子と夫が朝早くキャンプに出掛けたので、二人よりも早く起きてお弁当を作り見送った。
残り物のウィンナーを手で摘まみながらかじると、まだぼぉっとした頭で考える。
今日、何を着ていこうか?
夜だから、かわいい系よりちょっとセクシー系の方がいいのかな?
メグミからは、「オトナらしい感じで」って言われているけれど・・・。
そんな服あったかな?
油で汚れた指を舐めながら寝室にあるクローゼットに向かった。
「え〜っと・・・黒のメッシュオフショルダーセーター・・・これ透け過ぎかなぁ?
あとは・・・何がいんだろう・・・?夜のカフェって何を着ていくものなの?」
家での時間が長く続いたせいか、「夜のお出かけコーディネート」を考えることができなくなっていた私は溜まっていたファッション雑誌を引っ張り出してページをめくり始めた。
久しぶりに感じる「女になるための準備時間」。
悪くないな、と独り言を言いながら、棚のマニキュアに手を伸ばした。