■ Books Maison ■

□■テギョン妄想■ 「Red Palm」
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「店長、もうお昼行ってきていいいですよ?もう2時ですよ?」

ネイルサロンの仕事はひっきりなしで忙しい。
この商店街では唯一のネイルサロンだし、口コミのおかげで集客には苦労しない。

この国に来てもう三年もがむしゃらにがんばってるんだもん。
お昼ごはんなんて食べられたらラッキー。
そんな感じでいつも働いている。

住宅街近くにあるこの店は、歩道に植えてあるレッドパームが映える外装をしている。
あまりアジアンテイストが強いとクセが出るからとモダン風にしたのだ。

それでも中身はといえば小物はアジア各地から取り寄せたお気に入りのものばかりを
散りばめた、それこそ隠れ家のような空間。
そんな場所になるよう心掛けた。

そして開店して10か月。
やっとお店が軌道に乗ってきたというところだったのに・・・。

「店長のボーイフレンド、また外にいますよ〜。」

「だから違うって!!ユージーン、はい、交代!」

新入りのユージーンとランチの順番を交代する。
彼はまだ若く、しかもあたしが大好きなゲイだ。
中国系で身のこなしは女性的だが、その口はゲイ特有の毒舌。

裏表がなくてさっぱりしてていい。

「ったく、仕事にまでついてくるんだから参っちゃうな・・・」

店の外ではサングラスをした若い男が立っている。いや、郵便ポストに身体を預けながら店の様子を伺っていると言った方が早い。

彼は私服警官だ。
もっと詳しく言うと、あたしの警護を任されている私服警官だ。

彼の名前はオク・テギョン。
あたしのボーイフレンドでもなんでもない。

ただ、あたしの身の回りの安全を確保するために、24時間あたしにへばりついている。
寝起きもシャワーもすべてあたしのアパートでする。

たまに交代の婦人警官がやってくるが、彼女はちっとも役に立たなそうだった。
なにしろあたしは凶悪犯に狙われていて、実際に向かってこられたら女性では無理、なのだそうだ。

それでも彼にも休憩は必要だろうし、いくら「同居のボーイフレンド」を演じていても彼にも
プライバシーが必要だろう。

そう、たとえ「愛し合っているカップル」でも、プライバシーは必要だ!!!

この国の午後2時の日差しは強い。
ポストの傍までサングラスをかけながら行くと、彼が聞いてきた。

「お昼はどこで食べるんですか?この間のフードコートは駄目です。警護しづらいですから。」

「ねぇ、あたしのランチの場所まで制限するつもりなの?このあたりと言えば安くておいしい
あそこが一番好きなのに、あとはちょっと高めの気取ったレストランしかないじゃない。
高くつくったらありゃしないわよ。」

「じゃあ今日は僕が払いましょう。だから今日はすぐそこのタイレストランです。」


タイ料理は好きだからいいけど、その真面目っ面がつまんないのよ。
ずっとその仏頂面が目の前にあったら食欲だってどっかにいっちゃうよ。
あ〜〜〜ストレス溜まる〜〜〜!!


目の前で、にこりともしないこの男が時折首を左右に降りながらタイヌードルを食べている。
まったくもって怪しすぎる。
というか、もうこれは不審者でしょう。

「なんで食べないんですか?」

「だから・・・食欲失せた・・・」

「だからどうして?」

「・・・・・・・」

原因はアンタ!!とは言えないあたし。
一応あたしの身の安全を守るのがこの人の仕事なわけだから。

あの時、あんな時間に寄り道しなければこんなことにはならなかったのに・・・。
あの暗がりであんな場面を目撃しなければ、今のあたしはもっと自由なはずだった・・・。



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