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□メゾン会員100名達成記念作品 ■テギョン妄想■「ネクタイを外して」
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「情熱的な男テギョンです!」
(ふぅ〜ん・・・なんか・・・ダサ・・・)
それが一年前の全体朝礼が済んだ後の彼の最初の印象だった。
せっかくのイケメンが台無し。
そう、もう一年前になるのよね。
「大トロが大好きなジュンスです。」
(大トロって・・・)
営業は人柄が勝負だ。
もちろん売り込む商品やサービスも大切だけど、営業とはその人そのものを売り込む行為。
私はそう思っている。
営業サポートをしている後輩の女子全員が、彼らのその挨拶を聞いて大笑いをした。
どうやら二人とも「掴み」はOKだったらしい。
訛りが残る日本語だけれど、先輩日本人社員の後について営業先を回る研修だ。
それと日本市場を肌で感じること。
こればかりはその場を体験してみなければわからない。
ソウル支店の若い彼らにそれを研修で掴んで欲しい、というのが人事部の狙いだったらしい。
ジニョンさんの後押しもあったのだろうか?
二年前の移動でソウルからやってきたマーケティング本部長のジニョンさんは、蘇荷社長とも仲がいい。
アジアに強いうちの会社はすでにグローバルになりつつあり、次なる狙いは韓国。
だから彼らには会社側からの大きな期待がかかっていたはずだった。
それなのに、もう研修は終わってしまう。
サポートを通して彼らのことを知るうちに、すっかり彼らの姉のような気持ちになっていたのだ。
「テギョンくん、ジュンスくん。他の部署には内緒だけど今日の仕事が終わったら、営業部の気心の知れたグループだけで飲み会するの。
全体の送別会は二週間後だけど、その前に・・・どう?」
営業の佐藤さんが飲み会の「自称幹事」を立候補し、当然ながら佐藤さんの営業サポートをしている私にその仕事が回ってきたというわけだ。
「営業サポートチーフ」でもある私は、二人の若い研修生にその旨を伝えた。
「はい!ガンバリマース!」とテギョン。
「僕は歌をうたいまーす!」とジュンス。
歌なんかどうでもいいんだよ、とテギョンに突っ込まれながら、ジュンスは佐藤さんのデスクに向かっていった。
そしてテギョンだけが私の側に残った。
「あの・・・今日の夜は、安倍サンも行きマスか?」
子供のような瞳をさせて私に聞いてくる。
彼の魅力はここだった。
男らしさの中にもチラチラと見えるいたずら小僧の瞳。
これに騙されてはいけない。
いや、騙そうとすらしていないこれが落とし穴なのだ。
私は彼より十才も年上。
そんな穴には足を突っ込まない理性くらいはあるのだ。
そう、周りの後輩たちの様にはいられない。
「安倍先輩も行くって。だからテギョンさんも来てください。そうですよね、安倍先輩?」
甘い声でくっついてくるのは「テギョン・ファン」の後輩、春奈だ。
いつも語尾にハートマークがくっついている。
「テギョンさんはいつも安倍先輩に助けてもらってるから、懐いてるんですよねー。」
(どうせ私はあなたと同じ土俵では戦えませんよ。)
と思っただけで、もちろん口には出さない。
私はクールな女なのだ。
「良かったデス。」
そう言うと、テギョンは自分のデスクの方に戻っていった。
「せんぱーい、テギョンさんを盗っちゃ嫌ですよー。私、彼のこと好きなんです。」
「盗るもなにも、誰のものでもないでしょう。もちろん私のものでもないし。」
「そうですよね、先輩。先輩はテギョンさんより十才も年上ですもんね。」
(「も」に刺を潜ませたつもりでしょうけど聞き逃さなかったわよ、春奈。)
どうでもいいことだった。
年下の男の後輩に慕われるのは悪い気はしない。
でも、それ以上望むこともないし、こんな根性の悪い後輩女子を敵に回すなんて面倒くさい。
そこのところは適当に流して、私は朝の仕事を始めた。
夕方近く、まだ誰も帰っていない営業部のオフィスの給湯室で私はコーヒーを淹れていた。
営業サポートの女子だけのミーティングがあったのだ。
途中休憩にはコーヒータイムがあり、コーヒーを淹れる係はあみだくじで決められていた。
そして今日は私の番。
この会社には実質先輩後輩の強い上下関係はないのだ。
今頃会議室では今日の飲み会の話題で持ちきりだろう。
化粧ポーチを持ち寄って、お気に入りのコスメの情報交換をしているくらいだ。
少しくらいここで時間を潰してもいいだろう。
私は夕方のこの時間帯が大好きなのだ。
私はコーヒーメーカーがたてるコポコポという音が好きだった。
淹れたてのコーヒーの香りは、コーヒーが苦手な私にとっても心躍る香りだった。
誰かのために淹れるコーヒー。
私は誰のためにコーヒーを淹れてあげたいのだろう?
その時大きな人影が私の視界を遮った。
「コーヒーの匂いに釣られてキました。」
その影は少し早めに切り上げてきたテギョンのものだった。
「佐藤サンが、少し早いけど帰って資料をまとめておけと。」
「ジュンスくんは?」
「ジュンスは営業先の寿司屋の女将サンと意気投合して、まだ話し込んでマス。あの佐藤サンが苦手だって言ってた女将サンなのに。」
「あーーー・・・また大トロ大好きとか中トロ大好きとか言ってるのね。」
おばちゃん相手が大得意なジュンスがやりそうなことだった。
営業先のおばちゃんと仲良くなるのは、営業にとって必要な素質だった。
「僕のコピも淹れてクダさい・・・」
「コピね。うん、淹れてあげるよ。」
彼の真っ直ぐなところが好きだった。
最初から日本語が上手で、研修生のまとめ役を買って出た。
根っからのリーダー気質で、でもおっちょこちょいで。
営業サポートも彼のサポートなら苦じゃなかった。
美味しそうにコーヒーを飲む彼の笑顔が好きだった。
なのにもうすぐソウルに帰ってしまうなんて。
「ヌナ・・・」
温かい手のひらが私の右頬に触れたと同時に、コーヒーの香りがする彼の唇が私の唇を捕らえた。
今更どのようにして淋しさで歪んだ顔をなかったことにできるだろう。
私の瞳から涙が溢れた。
彼の広い胸に抱かれて、私は初めて知った。
私はこの子が好きなのだ。
この子が帰ってしまうのがたまらなく淋しいのだ。
営業サポートだけじゃ足りなくなっていた自分が悔しかったのだ。
彼が着ている白いシャツから、彼の体温が伝わってきた。
ネクタイはもう外してある。
彼の首筋を見つめていたら、今度は彼が私の首筋に唇を這わしてきた。
「はぁん・・・ダ、ダメだよ・・・こんなところで・・・見られちゃうから・・・」
「大丈夫デス。今マーケティング部のウヨンが、会議室に入っていきました。彼女達に新商品の販売戦略についてのリサーチの協力をしてもらってるカラ、アノ部屋からは出てこない・・・」
そうだった、今日の会議の理由はマーケティング部からリサーチを持ちかけられたからだった。
「僕の気持ち、気づいていませんでしたね?ずっと好きでした。」
彼の指が鎖骨の下を通り、胸の真ん中をなぞる。
胸の先端がつんとした。
離れては塞がれる唇。
吐息に混じるその音が私の耳を通り、私の身体を痺れさせる。
「安倍サンのこの匂い、好きです・・・」
彼の低い声が耳元で響くと、私の背はぴくりと動いた。
資料作成の時、よく私の頭の後ろから身をかがめて覗いていたっけ。
「もっと近くで感じたかった・・・」
胸元のボタンをゆっくりと下まで外すと、腰脇から手を入れてきた。
「あっ・・・」
私の背中は敏感なのだ。
彼はそのまま背中の上まで優しくなぞり、ブラの上から胸の膨らみを確かめた。
そしてさらにブラの下から指を忍び込ませると、ブラを上にずらし私の先端を親指で潰した。
「んんん・・・・・・」
堪らなそうな顔をしながらブラを外すと、彼は顔を近づけて固くなった先端を口に含んだ。
温かい舌の感触が私の身体に変化をもたらした。
(濡れてる・・・)
私は恥ずかしくなり、無意識に内股を閉じた。
それなのに彼はキツく閉じられたはずの内太腿を熱くなった手で強引にこじ開けて、スカートの中まで入ってきた。
嫌だ、と声に出しそうになったが、また唇で塞がれる。
彼の舌が私の口内に忍び込む。
(テギョン、私はこの瞬間を待っていたの・・・何度も夢の中で待ってたの・・・)
今まで無意識に抑えていた激流のような想いが私の胸の中で渦巻いた。
そうだ、夢見ていたのだ。
春菜とふざけてはしゃいでいる所を見た日の夜。
新人の女子アルバイトの子の失敗をカバーしてあげた日の夜。
私はいつもあなたのことを夢に見ていた。
夢のあなたはいつも激しくてせっかちで。
そんなあなたを私は制して、あなたに女の悦ばせ方をやさしく教えてあげていたの。
あなたはそんな私を見上げながら、上手にその舌を使って私の隅々まで味わってくれたわ。
「私の身体を持ち上げて、この上に乗せて・・・」
給湯室の流しの上に腰掛けさせてとねだる。
立ったままは苦手だから。
彼は軽々と私の身体を持ち上げると、私のおねだりの意味を察し、両手で私の両脚を広げた。
私は彼の人指し指と中指を握りスカートの中に導くと、ショーツの脇からその指を差し込んだ。
「こうやってして・・・私ここが一番感じるの・・・」
「うん・・・すごい・・・濡れてる・・・」
「テギョンのもこうしてあげる。」
舌を絡め合いながらそこを弄られるのが好き。
お互い加減を確かめ合いながら、お互いが一番感じるところを確かめ合うのが好き。
「テギョンの、固くて大きいよ。」
キスをしながら笑うテギョンが好き。
そしてその後にもっと激しく私の舌を吸うテギョンが好き。
「ヌナのもすごい音するよ。」
キスをしながらささやき合うのも好き。
もっと一緒にいよう。
もっと一緒に感じ合おう。
これからもっともっといろんなことを教え合おう。
帰国なんて何てことない。
だってこんなに確かめ合えたから。
「テギョン、今日の飲み会の後この続きしよ?」
「酷いな、ヌナ・・・でもその時は遠慮しないよ?もっとヌナの好きなこと教えて?」
こんな時だけ韓国語訛りがないなんて、妬けてしまう。
でもいいの。
これからは私だけのテギョンにするから。
そして私もソウルに行く。
今度は私がテギョンに教わりに行く。
週明けの月曜日に提出しよう。
佐藤さんから薦められていたソウル研修の申請書を。
ずっと迷ってた。
でももう迷わない。
恋も仕事も勝ちに行くから。
びっくりさせてあげる。
私からのサプライズ。
そしてもっともっといろんなことを一緒に楽しもう。
私たちならできる。
どんなことも一緒に・・・