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□■テギョン妄想■ 「Red Palm」
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「だから良く見えなかったって何回も言ってるじゃないですか!!」

長く続く事情聴取に私はかなり疲労困憊していた。あの日の夜は酷い雨が降っていて、周りを見渡す余裕なんてなかった。

いつもの帰り道、この国では珍しい野良の子猫に餌をやるためにあの路地までやってきた。
いつもならあたしの足音を聞くだけで走ってくるのに、あの夜は会えなくて・・・。

その代りあたしが出会ったのは、「死体」。
いや、もっと詳しく言えば、「死体らしきもの」。

だって、その「らしきもの」を見た瞬間に懐中電灯を当てられて、あたしの視界はゼロ。
そこへ酔っぱらった学生の集団が私のすぐ脇を通ってくれたおかげで命拾いをしたらしい。

学生の集団が大声を張り上げている間中、あたしの目はちかちかしてなんにも見えていなかった
っていうのに、なんであたしが付け狙われなきゃいけないんだろう?

被害者は女性。
顔をめちゃめちゃに切り刻まれていたらしい。
それはこの一か月間に何度も起きた犯罪で、その時で3回目。

そして警察はそれを目撃したかもしれないあたしが次の被害者になる可能性があるというのだ。

もしもあたしが犯人だったらそんなこと絶対にしないけどね。
だって、事実あたしのまわりには警護がついた。
それにあたしは本当になんにも見てなかったんだから。

「よろしくお願いします。」

そして「オク・テギョン」という名の韓国系真面目男子がつくことになった。
齢で言えばまだ20代前半。
超がつくほど真面目。

でも知ってるんだ・・・たまに誰も観ていないところで変顔するところとか。
たまに見せる笑顔がかわいいとか。

今日もオク氏と自宅に帰る。
「仲のいいカップル」を装って。

高層アパートの17階までエレベーターで登る。
もちろんエレベーターの中でも会話はない。

ドアが開くと、まず彼が先に出る。
出たらすぐに左右確認だ。
そして部屋のドアまで急ぎ足で歩き、私を先に入れてドアを閉める。

でもドアを閉めたからと言ってすぐには中に入らせない。
玄関口で私を待たせてから、自分だけ中に入り安全を確認する。
中に犯人が潜んでいる可能性があるからだ。

でもあたしは気が気でない。
今朝は時間がなくて、パジャマも下着も脱いだまま床に置きっぱなしだったからだ。
だからあたしは待ったをかけた。

「ちょ・・・ちょっと待って!今日だけはあたしに先に行かせて!」

怪訝そうな顔であたしを見つめるオク・テギョン。

「ダメです。安全確保が先ですから。」

「だからさ、プライバシーの問題があるんだってば。」

「プライバシーよりも安全である方が大事です。」

「だーかーらーっ!! そんなにあたしのパンツが見たいの!?」

「え・・・・・?」

あたしは見逃さなかった。
目の前にいる彼は、顔を一瞬赤らめた。
そして少しだけ考えると、あたしの瞳を見ながらこう行った。

「仕事ですから。」

「・・・・・・・・。」

頭の中で、チーンと鈴が鳴った。

「だからもういい加減にしてよ!!毎日うんざりなんだからっ!あたしだって危険な目に合いたいわけじゃないけど、毎日監視されるのはもう嫌なの!!」

「しかし、あの犯人はあなたの顔を見ているんですよ?あなたは見ていないかもしれないけれど、あの男は確実にあなたの顔を見た。それだけで十分なんです。あなたは今大変危険な状態にあるんですよ?まだわかっていただけませんか?」

そんなの十分わかってる!
それだけでも相当なプレッシャーなのに、おまけに息抜きさえできなくて・・・。
あたしの心は、恐怖とストレスで爆発しそうだった。

あたしはいつの間にか膝を抱えて床に座り込んでいた。
大声で泣きながら。
子供のように。

鼻水が止まらない。
化粧だってきっと流れ落ちている。
でも無理だから・・・今のあたしにこの感情を制御するのは・・・。

パンツまで見られて、こんなところまで見られて、あたしの生活はどうなっちゃうんだろう?
あの店は?苦労して立ち上げたあのお店はどうなるの・・・?

「じゃあこれから着替えてください。」

イラついた声の調子でオク・テギョンが言った。

「これから出かけます。安心して息抜きできるところです。オレの友人が経営してる小さな店だし、オレの知り合いしか行かない店だから、たぶん・・・」

「店ってなによ。どんなの着ていけばいいのよ。」

「そんなのオレに聞かれても・・・」

「だってアンタはあたしの恋人役なんでしょっ!!そのくらいしたらどーなのよっ!!!」

感情のコントロールが利かなくなったあたしは、とんでもない注文をつけていた。
あの、堅物の男オク・テギョンに。

「ったく気が強いったら・・・これなんかどうなんです?」

ほとんど怒った調子の声を立てながらあたしの衣装部屋をかき回すと、まだ袖を通したことのない
服を選んだ。

「マジで?」

「これがどうかしましたか?」

「てか、アンタこういうの趣味なんだ?」

「いけませんか?」

「だって、これならアンタも着替えなきゃいけないよ?こんな・・・セクシーなの・・・」

アイツが選んだのは、あたしが「勝負服」として買ったものだった。
背が小さいあたしはロング丈なんてもちろん似合わない。

でも、小さくても素敵に見せるセンスは持ち合わせているつもりだ。セクシー過ぎず、子供っぽ過ぎない演出が必要なのだ。

これでもあたしはあの店のオーナーなんだから、パーティーの一つや二つこなさなきゃなんないのさ。

両肩と両袖に面白いスリットが入っている変形シャンパンゴールドのブラウスに、膝少し上のタイト系スカート。
少しだけ露出する肌がきれいに生える。
これならベルトでアクセントをつけよう。

そして足元はヒールだ。
いつもはぺったんこだけど、この服ならこれしかない。

「アンタ、持ってるの?これに負けない服?」

そうだ、だって今だってスーツじゃないか。
いくら私服でもスーツはスーツだし、どう考えてもお堅過ぎる。これに合うなら・・・

「ちょっと待っててください。オレも着替えるから。」

ぶすっとしながらネクタイを緩ませ、寝泊まりしているゲストルームに入っていく。
そう言えばあの部屋に入ったことはなかった。
良く考えればあの部屋で寝泊まりしているんだから服やらなにやら持ち込んでいるんだろう。
例えば・・・下着とかも・・・?

そう考えだした途端、あたしの心臓がどきどきしてきた。そうだ、あたしはこの「男」とこのアパートで3週間も一緒に暮らしてきたんじゃないか。

仕事で忙しく、追われているかもしれないという恐怖で、何も感じられなかったあたしの方がおかしかったのだ。

あたし、アイツの何を知っているんだろう・・・・?
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