■@2PM■

□I'm Your Man
2ページ/6ページ

I'm Your Man MV


Wooyoung ver.


彼らを監視し始めてから、すでに三か月が過ぎようとしていた。
相手は現政府の陰謀を知った若きジャーナリスト。
自分に話が来ているということは、彼の命はもうすぐ消えてなくなるということだ。

どうでもいい話だが。

男はいつものように自分の頭の中で、今回の依頼をそう処理した。
ただ・・・相手には同棲をしている恋人がいたのだった。

「やむを得ない場合は、すべての関係者を抹殺せよ」

それもどうでもいい話だが。
だが・・・。

男には「感情」がない。
幼い頃からそうであったように、他人の感情も自分の感情も、自分以外のところに存在していた。
依頼を断ったこともなければ、仕事を全うできなかったこともなかった。
全ては、自分とかけ離れたところにあったのだ。

いや、そのはずだった。

仕事着のままのジャーナリストの男が出かける。
今日は仕事仲間の表彰式に招待されたらしい。
午後の遅い太陽の光が、二人が住む二階建てアパートの壁を照らしている。
もうすぐ壁の塗り替えが始まるという。

表彰式だというのに仕事着のままというのが、男の不器用な生き方を表わしている。
レセプションが終わればすぐに帰ってくるはずだ。
今日の自分は、男の婚約者である女の動向を押さえるだけでいい。
果たして女はどこまで知っているのか・・・。

女は婚約者を見送った後、身支度をしてアパートのドアから出てきた。
低いヒールが以前より遅いペースで、階段をコツコツと鳴らす。
海沿いの低所得者が住むような安アパートで、近所も寂れていて人影が少ない。
夕方近くだというのに生活音がまったく聞こえないのだ。

女はバス停を二つ行ったところの総合病院へ向かっている。
バスを降り病院に着くと、暫くロビーの端で待った。
病院というものは病気になるために行くようなものだ。
待ち時間が長すぎる。

女は二時間後にようやく解放され、ロビーに現れた。
会計を終え目の前を通るが、当然女は自分の姿に気が付かない。
そのままドアまで行こうとする女の胸には、一つのパンフレットが抱えられていた。

「初めてママになる方へ」

あの男の子供を宿しているのか・・・

女がバスに乗り込みドアが締まる寸前に、遅れてきた乗客がバスのドアを掴み、ぶしつけに入り込んでいった。
どこかで見た顔だ。
胸騒ぎがした。
隣国の諜報員だ。
なぜ・・・?

タクシーに乗り込み、バスを追う。
高鳴る心臓とは裏腹に、頭の中で整理されているありとあらゆる情報がカタカタと無機質に処理されていく。

(あの女は狙われている・・・)

バスよりも早くバス停に着かねばならない。
タクシー運転手に脅しをかけ、なんとかバスの前に割り込み、バス停より少し先であわてて降りた。

スローモーションのようにバスのドアが開いて、女が降りてくる。
歩道に降り、少しのぼせたような顔をしながら歩き出す。
すると歩道の奥からバイクのエンジン音が聞こえてきた。

「しまった!!」

小型バイクが女を目掛けて走ってくる。
女はそれに気が付かないのか、前のめりになり始めた。

(気を失うのか!!??)

さらうようにして素早く女の身体を抱きかかえると、小型バイクをかわし路上に倒れ込んだ。
幸運にも道を行きかう人々は無関心を装っていた。都会の空気はこのような事態に同情的だ。

病院から後生大事に抱えてきたのであろうパンフレットがバイクのタイヤの跡で薄汚れている。
男は女の身体を庇って下になった背中を起こし、女の顔を覗きこんだ。

「あ・・・」

女は軽く目を開けたが、何が起きたのかは分からなかったようだ。
ただ、目の前の男が自分が落としたパンフレットを拾ってくれたらしいことには気づいていた。

「ありがとうございました・・・」

女はそういうと、自分の腹部を愛おしそうに撫でながら起き上った。

「いえ・・・」

汚れたパンフレットを胸に、ゆっくりと歩みを進める女の後姿を見て、男は心の中に何かが芽生えるのを感じた。
そして、その何かが今夜中にも潰されるかもしれないという不安に襲われた。

(アイツは今夜必ず来る。アイツらもあのジャーナリストを狙っているのだ。そして婚約者である相手の女も狙っている・・・)

アイツに先に仕事をさせてはいけない。
女の後を追いアパートまで来ると、すでに感じ慣れた殺気がそこに漂っていた。

アイツだ。
アイツがいるのだ。

自分の気配も気づかれているだろう。
すぐさまアパートの周りを調べ、ドアまでの安全を確保する。
まだ本格的に襲う気はないようだが、この殺気は異常だ。

(いつ始める気だ・・・?)

そこへジャーナリストの男が帰宅する。
都合が良すぎる。
なぜ今この時間に帰ってくるのだ?
この殺気の中で、なぜこのタイミングで・・・?
盗聴器が二人の会話を拾い出した。

『今すぐ空港へ移動しよう。チケットならここに二枚ある。パスポートを早く!荷物なんかどうでもいい!』

『でも・・・』

『いいから!!!早く車に乗って、すぐに出発する!』


おかしい。
レセプションから帰ってきてすぐのこの会話だ。
どこからか話が漏れている。
そして誰かが、あの二人をこの場所から他の場所へ移動させたがっている。

(ダメだ、今そのアパートから出てはいけない!!狙われているのだ、出てはいけない!!)

しかし、その瞬間。
アパートの前に宅配便の小型トラックが止まり、配達員がアパートの目の前までやってきた。
荷物が届いたのだ。
しかしこの時間に・・・?

(ピンポーン)

盗聴器からドアチャイムの音が漏れ聞こえる。


(まさか・・・?)

すかさず監視用に使っていたバンの中から飛び出ると、アパートのドアまで音をたてないように駆け上がった。
そこには片手で小さい荷物を持ちながら、もう片方の手でサイレンサー付の拳銃を構えている男が見えた。

(違う男だ。しかしアイツの仲間であることには変わりない。)

ドアが開いた瞬間に男は拳銃を構えたが、後ろから頭を抱えられ不自然な方向に首を折られると、しばらくの沈黙ののちに床に崩れ落ちた。
目の前には、ジャーナリストの男が印鑑を片手に立ち尽くしている。

「これから空港に行くって言うのに、呑気に小包を受け取るなんて余裕、あるんですかね?」

男は一瞬の間の後、険しい表情を見せた。

「あんたは・・・!!!!」

「どうでもいいですが、命を狙われていることくらい知っているんですよね?
だったら今すぐ部屋の中に入って大人しくしていてください。」

「・・・・・」

「一体誰からそそのかされたんです?航空チケットを渡されたんですよね?
この部屋から出て、空港に向かう途中であなた達二人に死んでもらいたい人物がいるようですよ?
こんなに早くやってくるとは思いませんでしたけれどね。しかもあんなに見境なく・・・」

二人の男の会話の間で女が不思議そうな顔をして見つめている。
なぜさっき路上で自分を手助けしてくれた男がここにいるのだろう?
どうしてこの男は私達の行先を知っているのだろう?
女の顔にはそう書いてあった。

「私が言うまであなた達はここから一歩も出ない、いいですね?」

そう言うと、静かにドアを開き外へ出て行った。
殺気を感じる方向に出向けば済むことだった。

アイツはそこにいる。

すでに感じていたのだ。
アイツは、あの建物の中にいる。
しかし、アイツに構っている暇などないのだ。

あの二人を空港に送っていかなければならない。
そして無事に第三国へ送り出さなければならない。

(俺の使命は・・・何だっただろうか?ふ・・・もう忘れたよ)

緊急用に持ち歩いている小型拳銃だけを持ち、男は月明かりに照らされて冷たく浮かび上がる廃屋の倉庫に入っていった。
やがて銃声が鳴り響き、どちらかの命が奪われるのだろう。
しかしここで命を落とすわけにはいかなかった。
あの二人を無事に空港まで送り届けなければならないのだ。

片腕を打ち抜かれても、脚を折られても、あの女を守らなければならなかった。
そして婚約者と一緒に、安全な場所で無事に新しい命と暮らせるように。


「さてと・・・行くかな・・・」


天窓から降りてくる青い月影が、心地よかった。
死のみに向かう男の青白い顔に、微笑みが宿った。



cr. neru


大きい画像
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ