指先だけで、甘い熱を…

□廓の中の女に恋をした。
1ページ/1ページ


夜の江戸をいつものようにふらりふらりと歩いて回る。

今日は吉原にちらりと顔を出して、何か面白いものがないかと見ていたところだった。


キラキラと輝くこの街は、花街と言う。

まあ俗に言う花魁通りだ。

廓の中で美しく着飾った女達を、外から男達は選んで買う。

選ばれた女は、芸を売り、また…体を売った。

悲しそうにする女もいれば、腹をくくって逆に男を手玉に取ろうとする女もいる。

…ある意味、江戸の女が強いと言われる所以は、ここにいる女達からきているのかもしれない。

腹をくくった女は、強く、ひと際美しくなるものだ。

そう…ここで、まさに花魁と呼ばれる女は特に。


「……」


俺の求めている女は、廓の中でいつも不愛想に煙管を吹かす。

それは今日も変わらなかった。

相変わらず、つまらなそうに頬をついて煙管を吹かす。

たまに遠くの方を見つめては寂しそうな顔をしたが、それは客が来るとすぐに直る。


「今日も…ダメかい?」

『……。旦那さんには興味がないでありんす。わっちの気を引く事が出来たら…触らせてもいいでありんすよ』


「まあ、無理でしょうけど…」
と、そう言ってフッと妖艶に笑う。

男に決して媚びる事はなく、また、気に入った相手としか寝ない…“緋里”という花魁だった。

美しく艶のある黒髪と、燃えるようような深紅の瞳。

その瞳で見つめられるだけで、ゾクゾクした感触が背中を通り抜ける。


俺は…この女が欲しかった。

初めて見たときから変わらない、相手を信用していない瞳と、哀愁を誘う表情。

何もかもが…俺を誘った。

だが…。

(今日も無理そうだ…)

その言葉を聞いて、俺は静かにその場を去った。

面白い事など特になかった。

いつものように、男が女を買うこの街を出る。

俺はまた…、虚しい思いをするだけ。

かなわぬ恋。

それを知った時、俺は何を思うだろう…。






廓の中の女に恋をした。


(俺のこの想いはどこにぶつければいい…?)





.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ