指先だけで、甘い熱を…

□あなたの広い背中。
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今日もまた退屈な1日が始まる。

花魁としての仕事は、廓の中で男をもてなし、体を捧げるだけ。

だけど、私はそんなことはしたくない。

せっかく花魁になったんだ。

男なんてこっちから手玉に取ってやる。

私は半妖。

陰陽師の親と吸血鬼の間に生まれた、哀れな子供。

気付いた時には1人で、この花街にいた。

楼主は私を半妖と知ってここに置いてくれてるけど、腹の中ではどう思ってるかなんて分からない。

私は捨てられた。

もう何も信じない。

そう思ってた私だったけど…見つけた。

私を見つめる、熱い視線。

私が張り店に出されてから、ずっと感じる視線。

この狭い廓の中で、私はあなたを待つ。


「今日も…ダメかい?」

『……』


今日も、来た。

男は私にゆったりと話しかける。

粋な着流しを着たその姿は、男の色気を際立たせていた。

でも…。


『旦那さんには興味がないでありんす。わっちの気を引く事が出来たら…触らせてもいいでありんすよ』


無理だろうと言うのをつけたして。

私は悟られないように必死に花魁の仮面を被る。

つん。とそっぽを向いて、男から視線を外した。


そう言うと、男は悲しい笑顔を浮かべて、そっと傍を離れていく。


『……』


本当は、そんなことない。

あなたに愛されたらどんなにいいか。

去っていく後ろ姿を見つめながら、私は心でそう思う。

私は天の弱。

人を信じられなくなった、哀れな半妖の子。

親に捨てられたあの時から…私の時間(とき)は、止まったまま。





あなたの広い背中。


(それを見るたび、胸が苦しくなる)





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