指先だけで、甘い熱を…

□寄り添う肌。
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緋里が、俺を初めて座敷に上げた。

何の意味を表すのか、俺にはさっぱり分からなかった。

ただ…俺はその時、嬉しいという感情しかなかった。


『あっ…あぁんっ…』


俺の下で、アンタは嬌声を上げる。

まるで夢のようだった。


…俺はアンタを見つめるだけで、充分だった。

だが、抱いてみると意外にあっけない。

それでも、俺は夢中で腰を振った。


『はっ…ぁ、旦…那ぁ!』


緋里が旦那と俺を抱き寄せる。

はっきり言って、胸が肌に当たって気持ちいい。

だが、自分の名前がいつまでたっても呼ばれないのに少し苛立ちを覚えた。

さっき座敷に上がる時も教えたはずだ。

何故、この女は呼ばない?


「っ…旦那じゃなくて、鯉伴って、呼べよ。…緋里」


悔しくて、俺は体を激しく揺さぶる。

するとアンタは目に涙を浮かべながら更に俺に抱きついて来た。


『り…はん…!りは…っあああ…!』

「緋里…っ!!」


アンタに呼ばれた事が嬉しくて、俺はさらに腰を振る。

激しく、何度も何度も最奥を突く。


「っ…」
(俺の腕の中で狂っちまえよ…緋里…)


ぎゅっと抱きしめて、アンタの顔を確認する。

すると、呟かれた。

俺が望んでいた言葉。


『ああっ…す、き…!り…はんっ…!』

「!」


柄にもなく動揺しちまった。

今…好きって…?

自然と口角が上がる。

口元がニヤついてるのが自分でも分かった。


気付くと、俺は…。


「俺も…好きだぜ…」


遊女に言ってはいけない言葉を口走っていた。

その言葉にアンタは苦しそうに眉をひそめたけど、それは言葉のせいなのか、中に埋まっている俺のモノなのか。

どちらにせよ、俺は言ってしまった。

禁断の言葉を。


(あー…くっそ…)


必死に俺にしがみついてくるアンタが可愛くて仕方がねぇ。

なぁ…どうしてアンタはここにいるんだよ?

ここの女じゃなかったら…。


『りは…も…、だめ…ぇ…!』

「はっ…一緒に…っく!」

『ぁぁあああっ…!!』


俺が全て奪い去ってやったのに。




寄り添う肌。


(届かない想いはこんなにも虚しい)





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