指先だけで、甘い熱を…

□甘い熱を残して。
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行為が終わった後、私はあなたの腕枕で寝ていた。


『……』
(あったかい…)


こんな感覚は久しぶりだった。

何せ抱かれたのだって久しぶりなんだ。

普通に考えればそうだろう。

だけど…。


(私を遊女じゃなく1人の女として見てくれたのは…あなたただ1人だった)


すり…と、珍しく甘えた仕草を取ると、鯉伴はぎゅっと私を抱き寄せてくれた。


「……」

『……』


お互い無言が丁度いい。

私は、ちゅ…と、目の前にあるあなたの鎖骨に口づける。

すると、湧きあがってくる欲求。


(…ヤバいかも)


体が血を欲してる。

あなたに流れる赤い血を。


気を抜いたらそのまま齧りつきそうだ。


『っ……』


我慢するために私はぐっと体を起こした。

そうすると、伸びてくる長くてたくましい腕。

まるで離さないと言っているような感覚に、また、目じりが熱くなった。


「なぁ…アンタの本当の名前は?」

『え…』


意外な事を聞かれて、私は振り向いた。

その顔は驚きを隠し切れていなかっただろう。

普通の女としての一部を、あなたにさらしてしまった。

だけど、あなたは微笑みながら、私の髪を甘く梳くだけ。


『……』


しばし、黙って前を向く。

源氏名じゃなくて本当の名前なんて…。


『っ…』

(私の…名前…)


もう…私の本当の名前を呼ぶ人は、1人もいない。

それほどに私は孤独だ。

孤独が嫌いで、でも自分から孤独を選んでる。

滑稽な半妖の女。

そう思うと、胸がきゅっと苦しくなった。

もう、言ってしまおうか。


このまますべてをさらけ出して、いっそ楽になれたら…どんなにいいだろう。


(……)


いつしかあなたに惹かれるようになった。

この街にふらふらと遊びに来て、結局女を買わないで帰る。

私に話しかけて、ご機嫌取りをして…、私に…。

私に、熱い視線をくれた。

私に温かいという懐かしい感覚を思い出させてくれた。

私に好きという気持ちを分からせてくれた。


(もう…いいかな…)


私は決意を決めた。


『私の名は…』

「ん…?」


振り向いて、あなたの目を見た。


『私の名前は…、琉威』


ああ、もう戻れない。

口にしてしまった。

私の本当の名前。


「琉威…か。へぇ、いい名前じゃねぇか」


そう言って、今日初めての口づけをくれた。


『っ…!』


思わず赤くなる私に、あなたはニヤッと笑って、再び抱き寄せる。

そしてそのまま布団にポスンと寝転がった。


「そうか…琉威か。琉威ね…」

『そっ…そんなに呼ばないでほし…んっ!?』


気付いたら再び口づけをされていた。

よほど嬉しかったのだろう、あなたの顔が緩んでいるのが分かった。


「はは…可愛いな、琉威」

『っ…!?』


頭をふんわりと撫でられて、私は目を見開いた。

可愛いだなんて…そんな事一回も言われた事がない。

だいたい私はどちらかと言えば色っぽいとかそういう類で…。


『っ…煩いでありんす!』


言われなれない言葉に、私はまた顔を赤くした。

後ろでクスクス笑っているのが聞こえるが、無視した。


ああ…朝が来るのがもどかしい。

ずっと、こんな関係が続けばいいのに…。


そう思う私は…やっぱり滑稽なんだろうか。





甘い熱を残して。


(いつだって待つのは女の方)






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