指先だけで、甘い熱を…

□あの時の代償。
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夕方ごろ…

私は楼主に許しを得て一人町へ出ていた。

それも遊女だとばれるとまずいので、妖怪に変化してだ。


『人間が多いな…』


もう日が落ち始めているというのに、いつもよりも人が多く歩いていた。

祭か何かあるのだろうか?

ふと、そんな思考が頭を過る。

だが、依然としてお囃子や太鼓の音は聞こえてこず、それは杞憂に終わった。


『…チッ』


どうやら私がいるせいで人が集まってきているみたいだ。

またにこうして顔を出せば、見慣れぬ着物に銀から赤へグラデーションしていく髪が珍しく、面白がって人々は私を視るために立ち止まる。

自分は見世物ではないと思っていても相手から見るとやはり私は異質なもので、全身で拒否されている感覚だった。


(はぁ…。嫌な気分だ…)


私はそう思うと自然と人通りの少ない方へ足が向かった。

…それを見ていたある人物には気づかずに…。









カッカッカッ…


ヒールの音を鳴らしながら今日はどうしようかと考える。

すると…

ガシッ!


突然腕を掴まれた。


『!…なんだ!?』

「まっ…待って下さい…!」

『……お前は…』


掴まれた腕を見ると、以前助けた女がいた。

どうやら走ってきたようで、息を切らして苦しそうにこちらを見ていた。


『……』

「お…お久しぶりです…」


手を離さずに私に向き直った女は確か…


『…山吹…乙女…?』

「覚えていて下さったんですか!?」


そう呟くと、乙女はパッと顔を明るくした。

それが犬のように見えてならない。


『離せ。お前と話している時間がもったいない…』

「え…ま…、待って下さい!あの…っ!私…どうしても先日のお礼がしたくて、探していたら先程あなた様を見つけたので…」

『はぁ。礼はいらないとはずだ。さっさと失せろ。また妖怪に狙われたいか?』

「そ…それはその…」


そういうと途端にどもる乙女に

「フン」

と笑って踵を返す。


だが、一歩足を進めた所で再び腕を掴まれてしまった。


『…なんだ。まだ用があるのか?』

「ぜひ、私の所へ来て下さい!おもてなしいたします!!」

『いらない。…私は喉が渇いているんだ。お前に付き合う義理は…』

「分かりました、お酒ですね!?」

『い…いや、ちがっ…オイ!?』

「さあさあ、行きましょう!!」


私の話を最後まで聞かずにズルズル〜っと引っ張っていく乙女。


『……』
(…はぁ。しょうがないな…)


押しに弱いとはこのことか。


(まぁ、たまにはいいかもな)


なんて柄にもない事を思いながら私はそのまま大人しくついていった。





あの時の代償。


(嫌な女に懐かれたもんだ)


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