指先だけで、甘い熱を…
□意外な真実。
1ページ/1ページ
私は乙女に無理やり連れられて、その本家とやらに行った。
大きな屋敷、そして門。
ギィ…と、そこを開けると現れたのは…
妖怪!妖怪!!妖怪!!!
まさに妖怪屋敷だった。
勢いよく乙女の方を振り向き、顔を見る。
私の考えているよくない勘が当たらなければいい…、そう思いながら恐る恐る問いただした。
『お…乙女…お前まさか…』
「はい!私は人間ではなく妖怪ですvV」
ニコッと笑ってそう言いのけた。
『っ…はぁー…』
(予想外だ…いや、勘は当たったのだから予想通りか?…とりあえず……)
「どうなさいました?」
頭に手を当てて深いため息を吐く私を、乙女は不思議そうな顔で覗き込んでくる。
誰の所為でこんなため息を吐いたと思ってるんだ、まったく。
『帰る』
一言そう言って踵を返した私に、乙女が再度袖を掴んで拒む。
「どうして帰ろうとなさるんですか!遠慮はいりませんっ!さあさ、こちらです♪」
『……』
有無を言わさず、ズルズル〜…っと連れて行かれる。
周りは私を奇異の目で見ており、自分が異質なのはどこに行っても変わらないのだと再確認した。
『…分かった。分かったから引きずるのは止めろ』
「あ、これは失礼しました。では、改めてご案内いたしますね(にこっ)」
『…ああ』
(まったく…どんだけ力もちなんだ…)
いつまでも引きずられているわけにもいかないため、私から折れたが…どうにも、この山吹乙女は私と相反する存在らしい。
(笑う事も…人と話す事も…私としている事は同じなのに、相手が違うだけでこうも…明るくなるものなのだな…)
下を向きながらそんな事を考えていると、どうやら目的の場所についたようだ。
「乙女です。恩人の方をお連れいたしました」
「おお、入れ」
男の声が聞こえ、襖が開かれるとそこはもう宴状態だった。
ドンチャン ドンチャン
楽しそうな声が聞こえる。
『な…なんだこれは…』
ポカンと口を開けてその様を見ていたが、上座に座っている男に呼ばれ、私は近づいた。
「ほぉ?お主が“吸血鬼様”か?」
『…だったらなんだ?』
ギロリと冷めた目線を送りつけると、男はククッと笑った。
『何が可笑しい?』
「いや…?少し昔の女を思い出してな…」
『……』
(雰囲気が周りの妖怪とは違う…まさかこいつが大将か…?)
男は妙な雰囲気と畏れを纏っているようだった。
周りとはどこか違う…一歩進んだ者のような存在だ。
ビリビリと、少しだが威圧的な物も感じる。
「くく…気を悪くしたならすまん。…乙女を助けてもらって悪いな」
『別に…大した事はしていない』
(逆に懐かれて迷惑してる所だ…)
「まぁ…そう謙遜するな。俺はぬらりひょん。どうだ?一献…」
盃を差し出され、大きな酒瓶を持ち上げてゆらりと揺らす。
私は少しばかり躊躇ったが、それを礼として受ける事にした。
トクトク…と澄み渡った良い香りが漂う。
『いい酒だ…』
「ほぉ…お主、分かる女じゃな」
ニヤリと笑ったぬらりひょんと言う男は、注ぎ終わった瓶を隣りへ置き、私と盃同士をぶつけそして呑みあった。
鼻に通る米の甘い香りと味わい。
後味も爽やかでとても飲みやすい日本酒だった。
『…うまい』
フッと笑みを浮かべそう言うとぬらりひょんも「そうだろう?」と笑った。
乙女は私の隣でニコニコと笑っていたが、ある人物が来て表情は変わった。
「鯉伴様!」
私はその言葉に驚き、振り返る。
するとそこには…手ぬぐいをした鯉伴が、悠々と立っていた。
意外な真実。
(女に連れられ行った妖怪屋敷で出会った男は私の会いたかった人)
.