指先だけで、甘い熱を…

□哀れな半妖。
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静かな沈黙と柔らかな夜の風が2人を包む。

ふわりと風に靡く黒いドレスと銀の髪は、対照的でいて美しい。

常夜を纏う人物は、愁いを帯びた表情で目の前の男からの視線を逃れようと顔を背けていた。


『私…は…違う…』

「ん?」

『違う…この姿を…お前に見せるつもりなんか…。っ…見せたくなんてなかった…』

「……」

『私は人間でも妖怪でも…ない』

「!…まさか、半妖か…?」

『……』


無言で俯くと、それを肯定と捉えた鯉伴はさらにギュッと抱きしめた。


『なっ…はな…』

「俺もさ…」

『っ…?』

「俺も半妖なんだ。だから…アンタと同じだな」


そう言って軽く口元の笑みを浮かべる鯉伴は、「まさか同じ境遇の奴がここにもいるなんてな…」と、のんきな事を言っている。


『…同じ半妖でも、享受されている愛情が違う。私はお前と同じではない。お前はっ…この町の者から愛され、とても大切にされているじゃないかっ!私は…私は孤独なんだ…』

「……」

『…頼れる人も相談に乗ってくれる相手も…誰1人としていない…っ!』

「…琉威」


私は自ら孤独を望んだ。

真実を知られて辛い思いをするのが嫌だった。

だから自分から1人きりでいる事を選んだ。

否、選ばざるおえなかった。

誰にもこびない、儚い花としている事を…、その道を、自ら選んだのだ。

例え、この身に与えられる愛が一夜限りの偽りの愛情だったとしても、それだけで…良かった。

もう、自分から全てが離れていくのが…怖かった。


『っ…』


グッと鯉伴の着物を掴み、歯を噛みしめる。

すると、温かく大きな手が先程よりも私を優しく大切そうに包んだ。


「琉威…お前は1人じゃねぇよ。俺がいる。俺がいるから…だから、泣くんじゃねぇ」

『なっ…泣いてなどっ…!』


頬を伝う温かな液体は愛を感じた証。

鯉伴はそれを舐め取りながら、再び優しく口づけた。


『っ…』

「……」


羽根のような柔らかな口づけにほうっ…と、息を吐くと、鯉伴は切なそうな…優しい笑みで私を見ていた。

それに耐えきれなくなって、その胸にしがみ付き…静かに涙を零した。




哀れな半妖。


(流れる涙はもう凍えてはいなかった)





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