指先だけで、甘い熱を…

□涙の痕。
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「…落ち着いたか?」

『悪いな…』


ぐっと体を離して涙を拭う。

涙を流したのはあの見世に来てから久しぶりだった。


『…もう、私には関わるな』

「何故だ?」

『私とお前じゃ…境遇が違いすぎる。汚れた私と共にいてはお前も汚れてしまう…』


遊女とは…花魁とはそういうもので、抗えない宿命だ。

纏う仕掛けは高く、元々背負った借金と着物などの飾り代を返済するために自ら体を売る。

色々な男に愛でられ、そして抱かれた。

こんな薄汚れた女が…この組の大将である男の傍にいてはいけないのだ。


「…馬鹿だな、アンタ」

『私は馬鹿ではない。ただ、正論を言ったまでだ。あの…乙女とか言っただろう、あの女にしておけばよいのだ。私なぞ…』

「妹分をそんな目で見れねぇな。俺はアンタがいいんだ。琉威じゃなきゃ…意味がねぇ」

『っ…』


熱い瞳でじっと見つめられる。

あの緋里を見つめていた視線で。


「…琉威」

『やめろっ…そんな眼で見るな。私を…見るな…!』


胸が苦しい。

この男の事となるといつもそうだ。

抱かれるようになってからはさらにそれが酷くなった。


「俺じゃダメなのか?俺じゃ…お前の気持ちを支えてやれねぇか?」

『そんなこと…』

「俺はお前だけなんだ…琉威」

『り…はん…』


離した体をもう一度抱き寄せられる。

…温かい。

人の体は、ぬくもりは…こんなにも温かい。

このぬくもりに溺れられたらどれだけいいか…。

そんな甘い考えが頭をよぎるも、自分は花魁だと戒めて、こぼれ出しそうな気持ちを何とか押さえこむ。


「琉威。俺は…アンタが思っている以上にアンタに惚れてる」

『!』

「アンタの切ない顔を見るたびに苦しくなる」

『っ…杞憂だ。この姿を見ているからそう思っているだけだ。お前は“花魁”に恋をしている。…“私”にではない』

「……」


そう言って逃げる様に鯉伴の腕からすり抜け、塀の屋根へと飛び移る。


「っ…琉威!」

『さよならだ、鯉伴。私の所にはもう来るな』

「待て…!俺はお前を…!」


タンッと地を蹴り、その場から一気に飛び去った。

後ろから鯉伴の私を呼ぶ声が聞こえる。

押し寄せる涙を隠して足早にその場から逃れた。




涙の痕。


(残ったの物は虚しい気持ちだけ)





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