指先だけで、甘い熱を…

□変わりゆく日々。
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あれから数日。

私はいつも通り花魁として生活していた。

唯一つとして変わった事がある。

それは―――…


「緋里姉さん!」

『……』


私に禿という遊女見習いの幼女がついたという事だ。

私の下に1人置くと、つい最近楼主に言われたばかりだ。


『何でありんしょう』

「今日は稽古を付けてくれると言っておりなんしたから学びに来たでありんす!」

『そうでありなんしたか…。どれ、その冊子をよこしなんし』

「あい」


そう言って禿は少々古びた冊子を手渡した。

…この禿は以前からいた女子だ。

5歳でここに売られ、エリートとしての教育をされてきた、いわば引込み禿だ。

名はあやめ。

器量よし、顔よしのこの禿はなぜか私にとても懐いている。

「姉さん!」

そう言って慕ってくれるのはありがたいが、流石に毎日ともなると辛いものがある。


(これも花魁の定め…)


そう思いながら子犬の様に懐いてくる禿を無碍にはできなかった。

どこかしら…あのか弱い乙女と似ている…と、思う所もあった。


『さて…今日はここから始めるでありんす』

「あい!」


皆からも可愛がられるあやめに、私は何故この子が自分に付いたのか、少しだけ分かっていた。

…要は、人から愛される事を学べという事だ。


(全く…楼主も余計な事をしてくれる…)


心の中ではため息を吐きながら目の前できらきらした目で自分を見つめるあやめに、丁寧に教えていった―――――…




「姉さん、ありがとうござりんす」

『いいや。お前が新造となる日が待ち遠しいよ、あやめ』


「ふふ…」と、笑って頭を撫でるとあやめも嬉しそうに笑い、静かに部屋から出ていった。


『……』


1人になった部屋でぼーっと窓から空を見上げる。

夕方になり、青色から橙色変わった空の色は夜見世の時間を知らせる。


『鯉伴…』


あれから姿を見せない彼の男は、今頃乙女と仲良くやっているのだろうと、ふと…そんな事を思う。

本当に来なくなった鯉伴の姿が…酷く懐かしい。

自分から離れる様に言ったのにもかかわらず、こんなに恋しく想うだなんて…馬鹿げているし、自分勝手だ。

だけど…恋しく想ってしまうのはしょうがない。

想うだけなら…誰にも咎められない。


『さて…久しぶりに夜見世にでも出ようでありんすかねぇ。ふふ…楼主に怒られるでありんしょうな…』


1人でポツリとそう零し、夜見世の準備へと取りかかった。




変わりゆく日々。


(心に想う気持ちは…いつも1つ)





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