指先だけで、甘い熱を…

□あの姿に恋い焦がれる。
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琉威のもとへ登楼を止めて数日。

俺は考え事をする時間が増えた。

飯を食っている時、縁側で庭を眺めている時、晩酌をしている時…そして、あの桜の木の上にいる時。


「…っおい、鯉伴!!」

「!…悪い、首無!」


こうして他の妖怪と退治している時だって、どこか抜けてる。

…考えるのは緋里の事ばかり。

周りがちゃんと見ていてくれているからいいのものの、俺は独りでいるとどうやらダメみたいだ。


「どうしたんだよ、お前。最近らしくねぇ」

「別になんでもないさ」

「っ…何でもない面してねぇから聞いてんだろっ!?」

「……」

「もうやめなさいよ、首無」

「紀乃…。こいつはっ…それでもこの組を背負う大将だ!こんなに腑抜けちゃ話にならねぇんだよ!!」

「首無…」


紀乃が首無の傍へ行き体を押さえるも、首無は俺に飛びかかってきそうな勢いで詰め寄ってくる。


「…悪い、独りにしてくれ」

「おい、鯉伴…!!」

「……どうしちゃったんだろうね、鯉伴」

「っ…知らねぇよ!」


独り去る後ろで、首無と紀乃の会話が聞こえてくるも、それは耳に残らず、全て通り抜けていった。


「…琉威」


気が付くと足が吉原へ向いていた。

女と金が渦巻く…この夜の町に。

俺は琉威のいる見世の前で立ち尽くし、あいつの部屋がある場所を見つめていた。


(部屋にはいないのか…?)


この時間帯であればいつも部屋に灯りが灯っている筈だか、ついていないのはおかしい。


「まさか…!」


そう思い、女が並べられているところへ見に行くと、いた。

俺の愛しい女が。

いつも以上に表情が暗い琉威は、気だるそうに煙管を吹かして町を見ている。


「っ…琉威」

「緋里、君を買いたいんだが今日はいいか?」

1人の男が俺の前に立ち、先に琉威に話しかけた。

琉威はやはり気だるそうに、しかし色っぽく煙管の煙を吐き付けた。

『…お上がりなんし』


一言いい放ち、男を郭の中へ招き入れた。


「……」


あんなに辛そうな顔をしている琉威が、俺以外の客をとるとは思わなかった。

いや、思えなかった。


(腐っても…やっぱり遊女で、花魁なんだな、琉威)


私は汚れている。私と共にいてはお前まで汚れてしまう

そう言った 琉威の辛そうな切なそうな表情が思い浮かぶ。


「それでも俺はそんなお前が…」
(愛しくて仕方ねぇんだ…)


痛む胸の中心をグッと押さえながら、俺はそこから去った。


(琉威、今はまだ会いにいく勇気はねぇ。だが、もう少し…もう少ししたら、必ず会いに行く)


その時は俺に本当の気持ちを教えてくれ。




あの姿に恋い焦がれる。


(愛しく想う女は籠の中)





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