指先だけで、甘い熱を…

□二人の会瀬。
1ページ/1ページ


あの男を間夫としてから、さらに数日。

あの男は、鯉伴の代わりにちょくちょく顔を出すようになった。

名は六条。

どうやら京からわざわざ江戸へ商いをしに来た主人らしい。

聞けば、そこそこの儲けはあるらしく、こうして時々遊びに来ているらしい。

六条は私を抱く時や、ただ話をするだけ等まちまちで、どうやらその時の気分で決めているらしい。

私としては話をするだけで終わるのであれば、とても楽だ。

だが、こうもしょっちゅう来られては、私の“食事”をする時間がない。

…いっそのこと薬でも盛ってその際に…と、言う考えも浮かんだが、あやめがいたのを思い出してやめた。


『さて…どういたしんしょ…』


最近、血を吸えていない所為で、具合が非常に悪い。

だが、今日も今日とて六条は郭の中へ入り込む。


「緋里聞いてくれよ〜…」

『なんでありんしょう…?』


いつもの様にすました笑顔で受け答えをし、話を聞く。

…どうやら今日は抱かれずに済みそうだ。

たんたんと話をし、六条はたんとお酒を飲んで帰っていった。


『あやめ、膳を』

「あい」


呼ぶとすぐに来るかの子は、返事をして素早く膳を片付けた。

『ちょいと出掛けてくるなんし』

「わかりなんした…!」

重そうに膳を運ぶあやめをちらりと見て、闇夜へと飛び出した。


『あぁ…喉が乾いてカラカラだ…。今日当たる奴は可哀想だな…』


クスクス笑って屋根から屋根へ飛び移る。

そして…灯りが一つ見えた為、そこで立ち止まった。


『あれは…』


粋な着流しを羽織っているあの後ろ姿と長い黒髪は見覚えがある。


『鯉伴…か?』


小さく呟いた程度に言ったつもりが、相手には聞こえてしまっていたらしく、こちらを振り向いた。

「っ…琉威!?」

『…何をしているんだ、こんなところで』

「それはこっちの台詞だ。俺は飲んだ帰りだが…アンタこそ、何でこんなところに…?」


少しばかり嬉しそうに見えなくもないその顔は、まるで子供のように可愛く見え、私は少しだけ、クスリと笑った。


『私は“食事”だ。男の生き血が必要なんでね…』

「…生き血?あぁ…吸血鬼だったもんな、琉威は」

『そうだ。…今夜は酷く喉が渇くからな…“活きのいい男”を探していたところだ…』


ペロリと唇を舐めると、鯉伴はコクリと喉を鳴らしてこちらを見据える。


「なら…俺の血を吸うかい?きっと極上だぜ」

『ほぉ?それはそれで面白そうだ。では…遠慮なく頂こう』


この時、何故こう言ってしまったのか分からない。

私はただ…喉の渇きを癒したかっただけだった。





ふたりの会瀬。


(闇夜を繋ぐ互いの思惑)




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ