指先だけで、甘い熱を…
□熱く見つめる瞳の先。
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屋根から地上へ舞い降りて、鯉伴の目の前に立つ。
こうしてよくよくみると、艶やかな色気のある、いい男だ。
現在、緋里の乗客として来ている六条と比べてしまい、「ふっ…」と笑った。
それに鯉伴は不思議そうな顔をしたが、すぐに着物をずらして首筋を露にした。
コクリと喉が鳴る。
筋張った筋肉質な首筋だが、傷もなくとても綺麗だ。
しばらくそこを見つめていると、頭上で笑う気配がした。
「どうした?血、吸うんだろ?」
『…しゃがめ。届かん』
「はいよ。これでいいかい?」
そう言うと川辺に座り込んだ鯉伴。
そのまま両目を開けて、私の様子をじっと見つめてくる。
『…やりにくいな』
「俺のことは気にするな。喉…乾いてんだろ?」
怪しい笑みで見つめてくる鯉伴は少しだけ楽しそうだ。
これから喰われるというのに酔狂なものだと、溜め息を吐いて、首筋に軽く口づける。
そしてペロリと一度舐め上げてからツプリと牙を立てた。
「っ…」
鯉伴が息を飲んだのが分かるが、気にせずに滴り落ちる血液を啜った。
「はっ…く…」
『んくっ…(ゴクゴク)』
(半妖の…人間と妖怪の混じった血。これほど美味とは…)
しばらく思うがままに啜っていると、鯉伴が苦しそうに息を吐いて、何かをやり過ごそうとしているのを感じた。
まぁ…無理もない。
吸血中は獲物が抵抗できないように媚薬と似た効果のある体液を牙から放出している。
それを入れられた生物で今まで耐えられた者はただの一人もいない。
「っ…ぅ、はぁ…」
『……(ペロ)』
終わった合図にと傷口をはひと舐めすると、その傷口からは出血しなくなった。
「はぁ…はっ…もう、いいのか…?」
『ああ。充分満足した』
ニヤッと笑って、さて郭に戻ろうかと腰を上げると、腕を引っ張られた。
そしてグラリと揺れた体は、鯉伴の胸に収まる形で落ち着いた。
『…何をする。離せ』
少々ドスの聞いた声でそう睨むと、鯉伴が苦しそうな顔で私を愛おしそうに見つめてきた。
「っ…琉威…会いたかった…」
ぎゅっとそのまま抱き締められる。
久々に感じる鯉伴の熱に、私の心臓はドクリと高鳴った。
『りは…っん!?』
「はぁっ…琉威っ…」
『やめっ…んぅっ…ふっ…!』
甘く激しく…それでいてどこか優しい口づけをされ、吐息をすべて奪われる。
「琉威…」
『っ…』
トロン…とした瞳で見つめられ、私の心臓は苦しいくらいにズキリと痛んだ。
熱く見つめる瞳の先。
(視界いっぱいの愛しい人)
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