バアル
□サァ、飛ビ込ンデ!
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空は快晴、海は凪。
ただただ一面の青が広がる世界にゆったりと泳ぐは白鯨。
「「「ひま・・・っ!」」」
白鯨の名前はモビー・ディック。
背に100人を超える人員を乗せるもびくともせず、かの鯨は雄大に海をいく。
「マルコ、ヒマだから不死鳥の舞いやれ」
「意味分かんねぇよい」
「不死鳥だろ〜?」
「ダカラナンダ」
ここ1週間程、嵐も敵の襲撃もないモビー。
船員達の大半は時間を持て余し、あるものは船室で、あるものは甲板で・・・思い思いにヒマを主張している。
「ヒマなら酒でも飲んでろい、アホンダラ」
「まっ!お兄ちゃんになんて口のきき方!?」
「お兄ちゃんはマルちゃんをそんな風に育てたつもりはありません!!」
「オレだってお前らに育てて貰った覚えはねぇよいっ!!」
何がお兄ちゃんだっ!と甲板で叫んだのは変わった髪型の少年。
まだ幼さの残る彼の名前はマルコと言い、1年程前この鯨の飼い主たる船長エドワード・ニューゲートに拾われた新入りだ。
「おにいちゃ〜ん☆」
と、マルコが古株の船員達にからかわれていた時・・不意に聞こえたボーイソプラノ。
音源を捜して少しだけ視線を彷徨わせれば、船尾楼の上に座るマルコとそう変わらない年齢であろう少年が見えた。
「パイナップルは遊ぶもんじゃなくて食べるもんだぜ〜?
ギャレー〈食堂〉に持ってきなよ、調理してやっからさ☆」
ニタリと笑った少年の名前はサッチ。
見習いコック兼戦闘員としてマルコとほぼ同じ時期に乗船したのだが・・・。
「ハッ!おままごとのお時間かよい?さっちゃん」
「あ゛?」
「あんだよい」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
まぁ、見ての通り仲はあまりよろしくない。
「アイツらってなんでああ仲悪いのかね?」
しばらく睨みあった後、2人の間で鳴ったらしいゴング。
船尾楼の上にいたサッチが素早く飛び降り、甲板に座っていたマルコも立ち上がって即行でサッチに攻撃を仕掛けた。
ゴッ!と鈍い音が響き、次いでガシャンッ!!と何かがぶつかる音が2つする。
サッチの拳がマルコの頬に、マルコの蹴りがサッチの腹にクリティカルヒットし、お互い吹っ飛んだ音だった。
「おー・・始まったか〜」
「オレ、サッチが勝つに1000B」
「オレはマルコに1500B〜」
「オレは〜・・・」
吹っ飛んで空の酒樽を壊したものの、すぐにお互い立ち上がって攻撃態勢に入る末の弟2人。
ぶん殴り、蹴り飛ばし、お互いノーガードでひたすらステゴロに拘ってただただ相手を捩じ伏せようとするその様は正しく“牡”のぶつかりあい。
どっちが強いかはっきりさせ、どっちが上か見せつけて、意地とプライドかけてただ、ただ・・。
「「テメェにゃ負けねぇええええええっ!!!」」
ただ、コイツにだけは負けられないとその一心で殴り合う2人はまるでケダモノだ。
「グララララララッ!
またやってんのか、あの2匹は」
「あ、親父」
そんな騒ぎを聞きつけて、やってきたのはこの船の船長エドワード・ニューゲート。
金色の髪を靡かせて、グラグラ笑いながら殴り合う2匹の獣を見下ろした。
「どっちに賭ける?
今、サッチ4のマルコ6でマルコ優位〜」
ニタリと笑った船員の1人がグッシャグッシャに札の詰め込まれた帽子を見せる。
それは2人の結果に対する金額で・・・。
「グララララララララッ!
じゃあ、おれァ決着がつかねェに賭けるぜ」
ニューゲートは楽しげに笑った後、コレを賭けると近場にあった気に入りの酒が入った酒樽をドンッ!と集金係の前に置いた。
「おっ!コレどんなにねだっても呑ませてくんねェ親父のお気に入り!?」
「マルコが勝ってもサッチが勝ってもお前らで呑め」
「マジでっ!?」
祝杯用か〜!と歓喜の声を上げる集金係だが・・。
「ま、どっちもぶっ倒れたらおれの勝ちだがなァ?」
なんて、ニタリとニューゲートが悪い笑みを浮かべればヒクッと頬をひきつらせる。
まさか・・と酒にいっていた視線をぶつかりあう2人に映せば・・・。
「死ねええええええええええっ!!!」
その場の予想通り若干優勢だったマルコが丁度サッチを蹴り飛ばしている所だった。
なんだ、コレはマルコの勝ちか・・なんて集金係がホッとしたのも束の間。
「ッ!テメェがなっ!!!」
頭を蹴り飛ばされ、上体がよろけるも無理な体勢からサッチがマルコを蹴り上げたのだ。
「なぁっ!?」
「サッチの野郎、あの体勢から蹴り入れやがったぁぁぁっ!?」
マジかっ!?と甲板に広がる驚愕の声。
「っだぁっ!!」
「クソッ!!」
倒れる寸前に手を床につき、それを軸に無理矢理蹴りを入れたサッチはそのまま転倒。
マルコもマルコで、予想外の蹴りをモロに喰らって床に転んだ。
・・どちらもすぐ起き上がったけれど。
「「オレは・・」」
「テメェにだけは」
「絶対ぇ・・っ」
「「負けねぇええええええええっ!!!」」
ゴッ!!!
「「「あ」」」
華麗に決まったクロスカウンター。
互いの頬にめり込んだ拳は既にボロボロだった2匹のとどめとなり・・・。
「グララララララララッ!
おれの勝ち、だなァ?」
バタリと倒れた音が2重に響いて賭けはニューゲートの1人勝ちと相成った。
「マルコもサッチも男だからなァ?
相手より先に倒れるワケがねェんだよ、グラララララララッ!」
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