小説

□IF 世界改変阻止
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それは12月上旬のある日の事だった
俺は今、通学路の理不尽な登り道をうんざりしながら歩いている
どうして北高はこんな坂道の連なる上に建っているのか
北風の影響による不愉快な寒風を浴びながら、学校の創設者を本気で恨もうとした矢先、見慣れた姿を前方に発見した

「あれ?長門?」

藤色のきめ細やかなショートヘアに、雪のように白い肌、濁りのない済んだ瞳を持つ、一般的感性に基づけば美少女といって差し支えない対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース…
長門有希がそこにいた
ついでにこの季節だと言うのにコートやマフラーは一切装備していない
あるのはカーディガンだけだ

「………」

相変わらず三点リーダ連続の沈黙を返す長門が、俺の方に振り向き軽く会釈する
まぁ、それでこそ長門なのだが

「珍しいな。こんな所で会うなんてさ。」

「………」

再びコクリと長門が頷く
心なしか、今日の長門はご機嫌に見えた
そういえば、ハルヒのせいで600年近くループした夏休みの時と比べ、長門の表情も明るくなっている…
やっぱりコイツも延々と続く夏休みに嫌気が差していたに違いない
そりゃ、誰だってそうだ
いくら夏休みが長期休暇期間で多くの学生が喜ぶものだとはいえ、ハルヒの観測が仕事の長門にとっては、奴が何をしでかすか一々気を使わなければならないうえに、殆どおんなじような事ばかりさせられたのだからたまったものではないだろう
ここまでくれば、長門に優しくしてやりたくなる俺の気持ちも分かっていただけるだろうか?

「なぁ長門。今、お前幸せか?」

我ながら漠然とした問いかけだと思う
俺の質問に足を止め数回まばたきし、しばらくしてから首をかしげ長門はこう答えた

「…その質問の意図が分からない」

「えっ…あ、まぁ、大した意味はないんだが…どうなんだ?」

しどろもどろになる俺を長門の無垢な瞳が捉える
…そんなにじっーと見つめられると照れるんだが

「…一概に幸せと言い切るのは難しい」

長門にしてははっきりしない物言いだった
そこに疑問を感じた俺は、長門と共に再び歩を進めながら追求してみる

「どういうことだ?」

「…私にはまだまだやるべき事がある」

…なるほどな
確かにこいつの仕事はまだまだ続いちまうんだろう
それが十中八九長門にとって幸福とは言い難い事は俺でも分かる
だが、そのような考えを持てるようになった長門に俺は不謹慎ながらも嬉しさを感じてしまった

「幸せになりたいか?」

「…その権利が私にあるならば」

俺の質問に、長門は少し間を開けて答える

「あるさ。俺が保証する。お前は今まで一人で頑張ってきたんだ。きっと俺達が気付かないところでも活躍していたんだろ?」

「………」

長門は前を向いたまま沈黙を保っている
これを肯定と解した俺は、そのまま言葉をつなげた

「今後もし何か辛いと感じたり、嫌な事があれば遠慮なく俺に相談してくれ。お前には借りを作りすぎちまってる。俺なんかじゃ力になれんかもしれんが、出来る限りの事はするつもりだ」

「了解した」

俺の言葉に長門ははっきりと返事を返してくれた
それに満足した俺は、つい長門の頭に軽くポンポンと撫でるように優しく触れる
サラリとした髪の感触が心地よかった
…ここが通学路だということも忘れて

「おーい!キョン!…って…あっ!」

背後から聞こえた声に振り向いてみれば、谷口がアホ丸出しで口をポカンとあけたまま突っ立っていた
その目線は当然と言うべきか、俺の手に向けられている

「す、すまん…ごゆっくりぃいいぃいぃぃ!!!」

前にも聞いたような台詞を吐きながら、谷口は全力疾走で俺達の脇を走り去ってゆく
…声をかけるヒマもありゃしない

「面白い人…」

長門も前と同じ反応を返したので、俺もため息をついてあの台詞を言ってみた

「どうすっかなぁ…」

まぁ、実際問題がないわけじゃない
谷口は口が軽いから、うっかりハルヒによからぬ誤解を与えてしまったら大変だ
もうあんな閉鎖空間は金輪際ゴメンだからな

「任せて。情報操作は得意」

…長門よ…今回は俺の心配している部分の情報だよな?

「…あなたが私とキスをしていた事にする」

…………

…あのぉ〜、長門さん?あなたはいったい何をおっしゃっているのでしょうか?
予想斜め45度上をいく長門の言葉に俺はもはや言葉がでてこない
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