小説

□異世界同位体
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Side
キョン

ハルヒ消失事件から約一年の時がたった

今年も去年に劣らず肌寒い風が吹き荒れる中、俺は全速力で自転車をこぐ

マフラーや手袋を装備していても、身を切るような寒さは容赦なく体の芯を震え上がらせた
真冬のトライアスロンに挑戦している訳でもなく、何故俺がこんな外出を躊躇いたくなる気温の中自転車に乗っているかというと

「待ってろ長門っ!今行くからなっ!」

先ほど長門からかかってきた電話が原因だった

今日は日曜日
昨日も当然ながら市内不思議探索なる訳の分からん活動が行われ、喫茶店での奢りに加え組み分けが二回とも古泉と2人だったこともあり、俺は心身ともに疲れ果てていた

逆に女同士でのチームはさぞ楽しかったようで、ハルヒは一日中咲き誇るひまわりのごとく百万ボルトの笑顔だったし、朝比奈さんは見てるだけでこちらが幸せになれる天使の笑みを浮かべていた
そしてあの長門までもが口端を僅かにあげて楽しそうな表情をしていたのだ(もっとも俺以外にそれが分かったかは定かじゃないがな)

長門達が何をしていたのかは分からんが、心底羨ましいと思ったね
出来ればハルヒに場所を変わってほしかったぜ

…っと、話が脱線してしまったが、つまり俺は昨日の疲労が溜まっていて今日は起床時間が大幅に遅れてしまったのだ

目を覚ましてまず最初に気が付いたのはブルブルと着信を知らせる携帯電話だった
時計を確認してお昼過ぎまで寝てしまった事を知った俺は、大きなあくびをかましながら相手の確認もせずのんびりと通話ボタンを押す

「はいもしも「緊急事態。エマージェンシーモード。すぐ来て」

プツっ…

通話が終了しても俺はしばらくあっけにとられて身動きが出来なかった
だが、今の淡々とした声にもしやと思い着信履歴を見てみれば、長門有希という文字が浮かび上がっていて…
しかも一回や二回ではない
長門は二時間ほど前から俺に電話をかけ続けていたのだ
嫌な汗がジワリと背中に流れる
電話だけしてきて直接こちらに来ないのは家を出られない程の緊急事態が発生した証であり…

そこまで考えてからの俺の行動は自分でも驚く程早かった
寝起きの頭が瞬時に覚醒する
愚かにも長門からの電話に気付かずに寝ていた過去の自分をぶん殴ってやりたかったが、そんな暇はなく急いで寝間着を脱ぎ捨て適当な服に着替えた
どうしてこういうときに我が妹は起こしに来てくれないのだろうか?

あいつのエルボードロップが来なかった朝をこれほど恨んだ事はないが、他人に当たってもしょうがない

靴のかかとを踏み潰したまま家を飛び出した俺は、飛び乗るように自転車に跨りペダルにありったけの力を込めた足を叩きつけ寒風に身を晒した

「長門っ…!」

アイツと初めて待ち合わせした例の公園を通り過ぎる
長門が昨日見せてくれた微笑が脳裏に浮かび上がった

くそっ!アイツがいなくなっちまうなんて事があったら、去年の宣言通り俺はハルヒを焚き付けてでも取り戻してやるからなっ!

更に速度を上げあの高級マンションが視界に入ったその瞬間、自転車を投げ飛ばすようにして降りて全力疾走
エントランスに飛び込んできた俺を管理人が驚いて見てきたが、そんな事を気にとめている余裕はない

ボタンがぶっ壊れるんじゃないかという勢いで長門の部屋番を押す

無機質なコール音と、緊張と焦りでバクバクいっている俺の心臓が対照的だった

ガチャ

出た!

「長門か!?遅れてスマン!俺だ!」

「………」

相手側の返事は無かったが、俺は開けられたエントランスの扉から先へと勢いよく飛び込む

エレベーターに乗り込み、いざ長門の部屋へ

インターホンは鳴らすまでも無かった、長門の奴は玄関先に突っ立っていたからだ

「長門ぉっ!!」

…だから安堵のあまりその細い身体を抱きしめちまった事は許して欲しい

「……暖かい」

「っ!あ…す、すまん!」

「構わない…寧ろ…嬉しい」

慌てて身を離して正面に向き直ると、ほんのりと頬を朱に染めた長門はあの微笑を見せながら俺の心臓をハートブレイクするセリフを放ちやがった

比喩でも何でもなくマジでクラッときたね

長門が俺に対して特別な感情を持っているかもしれんことは、実は去年の今あたりからなんとなく気付いていたのだが、自分の自惚れかもしれんと思ってこっちから積極的に接する事は出来なかった

…もうお気づきかもしれないが、こんな思考をしてしまう俺は長門が好き…いや、愛しているのである

そんな俺に先程の言葉…

この場で告白しちまいたい気分だったが生憎今日の目的はそれではない
長門が無事に目の前にいるだけで安堵してしまったが、今は緊急事態なのだ

「…入って」

俺が長門の笑顔に見惚れていると、当の本人は照れたように視線を外しスタスタと自分の家に引っ込んで行ってしまったので慌てて追いかける

…そこで俺は驚愕の光景を見ることになった
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