*本編*【氷帝】
□-第3章-
2ページ/4ページ
「ごめんなさい、跡部さん。何かしら?」
周りの運営委員達に私の動揺を悟られぬよう、平常心を努める。
大丈夫、彼にバレても、他の生徒に仮面がバレなければ何の問題もないのだ。
落ち着け、私。
跡部「ったく、何ボーッとしてやがるんだてめえは。………まあいい。
お前、明日の土曜日空けとけ。」
「………………は?」
キャーと周囲から、黄色い叫び声が聞こえた。
そして、ざわざわと騒がしくなる。
しかし今の私にはそのざわつきすら、耳に入ってこなかった。
ただただ跡部景悟を凝視することしかできない。
跡部「だから、明日空けておけと言っているんだ。午後10時、お前の自宅まで車をよこす。それに乗れ。
以上だ。」
それだけ言うと、彼は私の返事も聞かずに再び前の壇上へと戻っていった。
運営委員1「キャー!跡部様が、佐原さんにデートの申し込みをされたわ!」
運営委員2「いやーん、跡部様ーーーっ」
運営委員3「おい、まじかよ。あの跡部君と佐原さんが…………。」
さらに周囲が騒がしくなった。
跡部「てめぇら、うるせー!」
「「「………………。」」」
シーン。
彼が声を張り上げるや否や、途端に周りが静かになる。
まるで水を打ったような静けさだ。
跡部「お前ら勘違いするな、俺様達は別に遊びに行くんじゃねぇ。今回の文化祭で他にもスポンサーについてくれる企業に挨拶回りをするだけだ。」
特に一際大きな声で騒いでいた3名の運営委員を睨み付ける。
可哀想に、今までの威勢のよさは何処に行ったのか、睨まれた3人は蛇に睨まれた蛙のごとく縮み上がっている。
もう一度、その3人を一瞥した跡部景悟は「解散」といい、2年生の大きな男の子を引き連れて、会議室から出ていった。
バンっと勢いよく閉まった扉の音で、ようやく私は我にかえる。
「―――――!」
まずい、跡部景悟を追いかけなければ…………!
私は慌てて立ち上がり、机の横にかけていた鞄を手に持つ。
勢いよく立ち上がったはずみで椅子が後ろの机にガンと当たり、大きな音が静まり返っている室内に響いた。
大きな音に驚いた皆の視線が、再び私に集中した。
本来の私ならば、即座に彼らに対して、謝罪し勢いよく立ち上がった理由を嘘を交えて弁解していたことだろう。
ただ残念ながら、今の私にはそんな余裕など一切なく、頭の中には跡部景悟の後を追いかけることしかなかった。
…