フォーゼ 短編

□きっとね
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「ねぇ、もし、夢が見れなくなったら・・・
 どうする?」


ここはラビットハッチ。
そこにいるのは、歌星賢吾と、その彼女の佐久間 鳴海(さくま なるみ)。


「・・・キミはいつでも急だな。
 今回は何があった?」


賢吾はコンピュータをイジッていた手を止めて、鳴海を見た。

だが、鳴海はラビットハッチの天井にかけられているライダー部の旗を見ていた。


「・・・」


何も言わず、ジッと旗を見ている。
賢吾は、さすがに不思議に思って体を鳴海に向けた。


「鳴海?」


そっ・・・と鳴海の肩に触れた。
なんだか、優しく扱わないと壊れてしまう気がしたのだ。

ゆっくりと鳴海の顔が賢吾を見た。
きれいな黒い瞳が自分を捉えた。
一瞬ドキリと胸が高鳴ったが、ふとおかしいことに気が付いた。


「鳴海・・・?
 僕はここだぞ?」


焦点が合っておらず、なんだか瞳が泳いでいる。


「・・・賢吾、あのね・・・?」


うるうると、瞳が濡れてゆく。
震えている声。
賢吾は、そっと鳴海を抱きしめた。


「・・・どうした・・・?」


「私、ね・・・?
 賢吾と、一緒に頑張りたかったの・・・」


自分の背中に腕を回して、ギュウッ・・・と強く抱きしめ返してくる。
じんわりと暖かくなる肩。


「私・・・頑張りたい・・・まだ・・・」
「鳴海?何があったんだ・・・?」


嫌だ予感しか、しない。
先ほどの鳴海の目は、自分のほうを向いていたが、自分を見てはいなかった。


「鳴海?」



体を離して、鳴海の顔を見る。
鳴海は軽くうつむいていて、ポロポロと涙を流していた。

何も言わず、賢吾は鳴海を見つめる。
鳴海は、ゆっくりと重たい口を開いた。


「あのね・・・?
 私・・・目が、見えなくなるの・・・」

「・・・え?」



頭が一瞬、真っ白になった。



「今でも、賢吾の顔・・・あんまり見えない・・・
 嫌だよ・・・私・・・」


そういって、嗚咽を漏らしながら泣き出す鳴海。
賢吾は何も言わずに抱きしめた。



「・・・まだ、見えるのか・・・?」
「・・・ッ・・・」


そう問えば、鳴海は小さくうなずいた。



「そうか・・・」



そんなとき、彼女になんて言ってあげればいいのかわからなかった。

下手に慰めても、きっと鳴海はそれを望まない。
それに、慰めるのは苦手だ。



「・・・鳴海。いつ・・・見えなくなる?」
「わかんない・・・でも、今年中には・・・」



賢吾は、手に力をこめると体を離した。
行き成りのことに、鳴海は驚く。



「鳴海、星を見に行こう。」
「・・・え!?」

































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