その他ジャンル夢(羽哉)
□天候と鬼上司にはご注意を
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さて、暫くは会話もせず、黙って静かに歩いていた2人であったが、その沈黙を最初に破ったのは鬼灯であった。
「なるほど…こんな感じですか」
「…?」
ぽつりとそんな事を呟いた鬼灯の顔をチラリと見つめる○○。
鬼灯は、正面を向きながら続けた。
「相合傘です…した事が無かったもので」
「は…はあ」
相合、傘…?
相合傘とは、ひとつの傘を2人で使うことであり、そういう意味からすると確かに今の状態は相合傘であったが、、、
自分の抱いていたイメージとはかけ離れたものであったので、○○は素直にこれを相合傘とは受け入れられなかった。
―いや、そもそもそんなことをさらっと口に出せるこの男の感覚が○○には不思議であった。
「…きっと、好きな人としたらもっと心地の良いものだと思いますよ」
やはりこれが相合傘ということにはどうしても納得がいかなかったのか、○○は何となく、自分のそれに対するイメージを含めてそんなことを言った。
「心地良い…?落ち着かない、の間違えではないですか」
「…落ち着きのない鬼灯様なんて、私には到底、想像出来ませんね」
「私も、落ち着いたあなたなど、到底想像できませんね」
特に朝は酷い――そう最後に言った鬼灯の言葉に、○○はつい顔を背けて思った。
「私だって…雨さえ降らなければ、今頃出勤してっ…」
「ええ…ですからこうして、私の傘に入れて差し上げてるじゃありませんか」
「え、どうして…てか気付いてっ…えぇ!?」
―ぐえ!!
驚きのあまり思わず足を止めれば、足を進める鬼灯の、いつの間にか後ろに伸ばされていた手の平が○○の後頭部にヒットした。
その衝撃で前に1、2歩出させられた○○は、再び、鬼灯と共に歩きだしたのだった。
「全く…危うく濡れるところでしたよ」
「そ、それは良かったですね…」
涼しい顔をしながら言う鬼灯にジンジンと痛む後頭部を押さえながら合わせる○○。
その表情は、心底、この上司に文句を言ってやりたいと言っていたが、そんなものは必死に呑み込んで、○○は続けた。