テニスの王子様【長編】
□第1話
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「まあ、せいぜい頑張るんだな」
そんな好きな人からの言葉を胸に
また1年、猛勉強に励んできた私は
やっとその努力を実らせる事が出来た―――
「というわけで、早速、会いに来ちゃいました!」
入学説明会が終わってすぐに○○がやって来たのは、跡部のいる生徒会室だった。
「ああ、そうかそうか、それは良かったな」
感情の籠っていない返答をする跡部の手は常に動いていた。
時期が時期なだけに、生徒会長としての仕事で忙しかったのだ。
「で?話はそれだけか?」
一刻も早く集中したかったのか、他に用件が無いか尋ねる跡部―
だったが、それへの○○の返答を聞いた途端、思わず跡部は、ぴたりと手の動きを止めた。
「はい!本当に有難う御座いました!」
「あーん?なんで礼だなんて…」
「あの時っ…私が跡部さんに告白した時、跡部さん私に、頑張れって言って下さいましたよね。
私、あの言葉があったから、あれから1年、また頑張れたんですっ」
「…………」
「だから…今の私があるのは、跡部さんのお蔭でもありますから、どうしてもお礼が言いたくて……」
「フン…つまり、俺は自分で自分の面倒事を増やしちまったってことか」
「あはは、まあ…そうですねっ」
「笑い事じゃねぇ(っつーか、認めんな)」
苦笑して返すと、跡部は、また、手を動かし始めた。
「では、失礼しま…ぁ、」
「?」
速やかに退室しようとドアノブに手を掛けたその時
○○は、何かを思い出したかのようにはっとして、跡部の方を振り返った。
「あの時、言いかけた言葉なんですけど…」
「…………」
跡部の脳裏に思い当たる出来事が過った。
あの時…
1年前、○○が言い掛けて結局言えなかった――
「私、諦めません!…そう、言いたかったんですっ」
「っ…、」
そう言って、ちょっと照れくさそうに…
でも、満足げに微笑むと、○○は、
今度こそ、「失礼します」と元気よく言って、生徒会室を出て行った。
●●、○○…か……
「――ったく、とんでもねぇ奴に好かれちまったもんだぜ…」
そう言って、また、いつの間にか止まっていた手を動かし出した跡部の口元は
微かに綻んで見えた――――