短編

□ひだまり
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暖かな春の光が注ぎ込む。

はとりは紫呉の家の縁側にいた。

由希の検診が終わり、一休みしていたのだ。

ここのところ疲れが溜まっていたせいか、気を抜くと、うとうとしてしまいそうだ。


「お疲れでしょうか、はとりさん。」
透がそう言ってお茶を運んできてくる。
「少しぼーっとしていただけだ。大丈夫だ。お茶、ありがとう。」
常にこうやって周りを気遣う彼女になるだけ心配をかけないように返す。
「いえいえ。私にできることといったらこうやって家事をさせていただくことくらいですから。」だからお気遣いなく。
そう笑って彼女は言った。
ひだまりのような笑顔だ。
(その笑顔に草摩の人間がどれだけ救われているか…)

はとりはそう思った。
実際、永遠に春は来ないと思われた自分の心に雪解けの日差しをもたらしたのは彼女だ。

(だが、俺はまだ、何かに怯えているのだろうか)

ここのところ
そんな考えばかりが浮かぶ。
彼女の笑顔を見る度に。
確かに、佳奈との思い出は
昔のこととして受け入れられた。
思い出しても辛くなることはない。
むしろ綺麗な思い出だ。
過去に捕らわれることはなかった。

しかし未来を求めているだろうか、俺は。

何故か躊躇われてしまう。

やはり怖いのだろうか。
過去に別れを告げたからといって、自分の数年間の未来への諦めは拭い去れていないのだろうか。




わからない―――――

そうやって自問自答を繰り返すが
答えは出ない。





でも、もし、そうだとして、
自分がもし、未来を求めることができないでいるなら、

そう言ったら
彼女はどう思うだろうか。

またあの日差しを与えてくれるだろうか。

今度は未来への道を
その笑顔で
照らしてくれるだろうか。

それともこんな弱い俺は
さすがに受け入れられないだろうか。

あぁ。そうだろう。

彼女も一人の少女だ。

他人の想いまでも
全て背負えるほど強くはない。




ツキッ―――――
そう思うと
心が傷んだ。

自らを閉じ込めていた
結晶の破片が刺さったような。

ほらな、やはり雪は溶けきっていなかった。

未来を求めていないからだ。

答えは出たのに
それは悲しいものだった。





フッと
はとりは自嘲気味に笑った。











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