迫桜記

□第一章
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早朝
雲一つ無い晴天だった

鳥のさえずりが心地良い

「よぉし天気もいいし子供らが来る前に表を掃除するか!!」
男は一人張り切って
ほうきを片手に落ち葉をかき集めた


【試衛館】の看板をかかげた道場の周りを綺麗に掃き終え
そろそろ戻ろうかと思った時
ふと目を留めた


「…足?」
目をやった方向に草むらから覗かせている足を見つけた

「誰か居るのか」

そう言って近づくと少女が倒れていたのだ



****************







…暖かい


此処は何処?


朦朧と覚醒していく意識の中
木目の天井が目に入った


私昨日…

ーガラッ

「具合はどうだい?」

昨日の出来事を思い出したのと同時に

襖が開き

優しそうな男性が入って来た

後ろから同い年くらいの男の子も顔を覗かせていた

「私…」

「ここの入口の近くで倒れていたんだよ」

「あ…ご迷惑おかけしました」

掛けられていた布団から出て両手をつきながら頭を下げた

「本当迷惑だよ。目に付かない所で野垂れ死んでよね。お陰で午前中稽古見て貰えなかったんだから」

「総司!!」

優しそうな男性が男の子を怒った

「出て行きなさい」

そんな必要ない

「…私が出て行きます」

「しかし君はまだ…」

本当に優しい方なのだろうな
こんな私を心配そうに見ている

私なんて優しくされる資格ない

「この子がいいって言うならいいんじゃない?」

男の子はしたり顔で見ていた

「はい…あ…着物…」

私は着ている着物が自分の物ではないことに気づいた

「あぁ失礼とは思ったが着替えさせてもらったよ。その…着物に血がついていたから」

「…」

「…あれは返り血かい?」

「…はい」

「良かったら話してくれないか?」

その瞬間少女の目から
光が消えたのを2人は見た
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