地下街
□1頁な御話
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【運命の人】
仕事に追われる日々
ここ一週間は自分の時間も作れず、妙なもどかしさがありました。
そんな多忙な日々があと二週間も続くと云うのは既に理解していますし
今日だって任務があった筈なんです。
しかしお相手様の都合により仕事が急遽無くなり
折角早めに現地へ来たと云うのに…丸一日時間を持て余す羽目になってしまいました。
家に帰ってゆっくり休もうかとも思いましたが…
忙しい日々でも、自分の時間が無いだけであって体を休める事は怠っていませんし…疲れが溜まっているわけでも無い。
宵の口とも称されるこの時間。
宛もなく歩いてみるのも中々出来ない事ではあると、時間を潰していた酒屋の主人にチップを払って店を出ました。
程無く歩くと
ふと今まで感じていた肌寒さを吹き飛ばす程に心地良い音楽が耳から伝わってきました。
顔を向けるよりも先に耳が動く。一呼吸遅れて視線を向ければ町外れの大きな屋敷の庭園で行われていたパーティーでした。
あぁ…気付けばこんなに遠くまで着ていたんですか…。
無意識にそう思った瞬間
不意に門が僅かに開いて、小柄な犬獣人の女性が出てきて…謀らずとも目が合ってしまい一瞬躊躇いましたが…
貴女は小さく微笑んで僕の手を取り…こう云った。
『ご一緒…しませんか?』
考えるまでも無い
告げる答えはただ一つ。
『僕なんかで良ければ
…喜んで』
彼女は貴族で、姉に連れられ無理矢理パーティーに出席させられたのだと…。
慣れない雰囲気に疲れ、一人抜け出そうとして僕と出逢った…と云うのが事の始まりですが
僕の希望により共にパーティーに戻り、華やかな会場の片隅で会話を交わしました。
互いの事を話すでも無く、それ程多くの話をしたわけでもありませんが…彼女と共に過ごした時間はとても心地良いもので
今まで感じた事の無い安堵感すら芽生えていて……僕自身…とても不思議な気持ちでしたよ。
今でもよく覚えています。
あんな女性は他には居ない。
あぁ…僕はこの方と共にこれからの将来を生きて往きたい。
そう思ったんです。
‥…この僕が。
夢のような一夜は
瞬く間に過ぎて行き
また明日からの任務に備えて彼女と別れましたが…
どうにも彼女の事が頭から離れない日々が続き仕事にも身が入らず、何度相方に怒鳴られた事か‥。
そんな仕事帰り
鼻腔を擽るこの香り……間違える訳がない。
そう
彼女もまた…僕を求めていてくれたんです。
人目を気にする思考なんて働く訳が無い。僕はこの両腕に彼女を抱き締め……
「と、云う素晴らしい夢を見たんです」
「……貴様らしい夢だな」
「これって正夢になりませんかね?」
「夢と現実は違うと…前に自分で云っていなかったか?
…大体
貴様が一人の女にのめり込む姿が想像出来ん」
「あぁ…それは僕も思います。
が、全てを捨てても良いと思えるような…そんな女性に出逢いたいんですっ!」
「あー…はいはい」
「‥……。」
「急に黙るな。気色悪い」
「そこで相談なんですが…」
「…あ゙?」
「マルちゃんとミウちゃんの馴れ初めが聞きたいな〜…っと思いまして♪」
「な…っ!!
それは貴様には無関係だろ
何故そんな話になるんだ!」
「いゃあ…
奥手なマルちゃんがどうやって恋人を手に入れたのか前々から興味がありましてね」
「………まさか
今までの話はこの話題に持ってくる為のデマカセじゃないだろうな…」
「え?
一体何の話ですか?」
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本当に夢なのか
作り話なのかは本人しか知らないでしょう(^^)
密かにラブラブなお二人が羨ましいんですよ、うん。
09-3/1