地下街

□1頁な御話
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【狗と仔猫と…】










「………。」







小柄な一人の男は困っていた。
端から見れば到底困っているとは思えないのだが…否、ただ立ち尽くしているようにも見える。


発する言葉すら判らずにいるであろう不器用な彼の前には
小さな仔猫が二匹、段ボールの中で喧嘩をしている。



白い体毛と変わった服装のその小柄な男は当たりを見回すが、今は早朝であり人気が無い。

仔猫の体は骨が浮き出ていて、弱々しくも生きようと必死なの事は誰が見ても判る程だった。



「……参った…」

彼は、自分がこの猫達を見捨てる非情さを持ち合わせて居なかった事に困惑し
同時に…居候である自分が勝手な事をしてはいけない事も理解していた。





気付けば彼は走り
辿り着いた一軒の喫茶店へと躊躇いなく足を踏み入れ、驚いたように此方に目を向けた大柄な獅子人に向かって口を開いた


「貴殿に…ッ頼みが…」




「何事かと思えば…頼み、だと?…珍しい。
何だ、云ってみろ」


彼の言葉を聞いた獅子人は意外そうに目を見開いたが、直ぐに穏やかに微笑んでは言葉の続きを促した。



「…食べ物を……。
美味い…食事を作って欲しい」


獅子人は悩むように絞り出された言葉を聞いて唸るように息を洩らしながら顎に手を添えた。


「……それは構わんが…俺が作るものでお前の口に合うのは茶くらいだからな…」

彼は…頼みの内容に反して異常とも思える程にソワソワしている小柄な男の姿と、自分の疑問である点も良く理解しているであろう本人を一度見据えてから瞳を伏せた

「…はァ、‥それだけでは判らん。理由は追及せんが…何を作れば良い、それくらいは云えるだろう」



自分なりに精一杯の表現をしたつもりだったが…また伝わらなかった。
己の不甲斐無さに常に立っている朱塗りの耳を伏せて俯く白い狗。
取り敢えず落ち着こうと深く息を吐き出して顔を上げ、自分よりもかなり背の高い獅子人を見上げた。


「猫が…
弱って、いて……助けたかった」

普通の仔猫が何を食べるのかも判らない上に上手い言い訳の言葉も見付からない彼なりの言葉を聞き、獅子人は瞳を細めた

「連れては…帰れない故、貴殿しか…思い当たらず…」


「……そうか」




獅子人は一言返して、カウンター内にあるドアへと姿を消した。

やはり駄目だったか…と歯痒さに眉間を潜めながら踵を返したその時




「ルクゥに留守を任せて来た。猫達の所へ案内するくらいなら出来るだろう?
…食事だけ与えて中途半端に生かすより、保護した方が早い。
それに…猫族を見捨てたとあればマルクスとミウが黙っちゃいないだろうしな」


コートを羽織った獅子人が戻ってくるなり呆れたような口調で云いながらも穏やかな顔付きで狗人を見やれば、先程までペタリと伏せられていた耳をピンと立てて頷き足早に店を後にした彼の初めてみる嬉しそうな後ろ姿を見て彼はまた静かに頬を緩めて自分よりも小さな白い男の後に続いた。






---------


「…飯を与えたかっただけなら、俺じゃなくてタスクに頼んでも良かったんじゃないか?」


「………それは…
  怒られる……」


「アイツなら喜んで作りそうだがなぁ」


「…今日は…女性と逢瀬だと…」


「そうか…久々のオフだから仕方ないな。
かと云ってマルクスには任せられんしな…

…まァ良い。
帰ったらコイツ等の飯を作って、一息付いたら茶でも煎れてやろう。東の知人から新しい茶葉が届いたんだ。
お前の好きな渋めだったから残しといたんだが…中々顔を出さんからなぁ。」


「………恩に着る」


「構わんよ。
どれも俺が好きでやってる事だ」








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銀司の短編だった筈が出しゃばった獅子様(^^)
東の知人とは…彼です、隻眼の。いつかシンクロさせてみたいでっす(´ω`)
しかし…これは短編で良いのだろうか?と思ったが、1ページで収まれば短編扱い!それが俺ルール!!


09-4/27

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