短い話

□初夏の大地
1ページ/6ページ

初夏の大地 上



「サスケ様〜」
 先ほどからメイド達が探し回っているのは、この家に住んでいるうちはサスケ。うちは家は、旧財閥系の有名な会社で、今もなおその力は衰えていない。
 その家の次男であるサスケは、成績優秀、運動神経もとても良い。更に顔も整っており、性格もクールで、女子に絶大な人気を誇っている。しかし、それは表の顔であって、本当のサスケではない。だから、たった今も家庭教師が着ているにも関わらず、部屋から抜け出してメイド達を困らせているなんて誰も知らないことである。
 実際のところ、女子に騒がれることは、サスケにとってウザったるいことであって、どうでもいいのだ。そこが、女子にとってはツボらしいのだが。
 サスケが振り向いて欲しいのはただ1人だけ…
「サスケ!!やっと見つけた」
 この家でサスケのことを呼び捨てにできる人間は彼の家族以外たった1人しかいない。それは、たった今サスケのことを呼び捨てに呼んだ人物である。
「もう先生待ってるってばよ」
「知るかっ。俺は家でまで勉強なんかしたくないんだ」
「またそんなわがまま…。サスケがちゃんとしてくれないと、俺ってばサスケのお世話係じゃなくなるってばよ」
「そんなの俺が許す訳ないだろ」
「でも、俺がついてる意味がないって違う人に変えられちゃうかもよ」
「そしたら、俺もこの家を出てってやる」
「なに言ってるんだってば!?そんなに家庭教師が嫌なら旦那様に言えってばよ」
(…ハァ〜。ナルトはわかってない)
 ナルトというのは、この家でサスケの世話をしている少年のことである。ナルトの母親はサスケの母親の大親友で、ナルトの両親が事故で亡くなった後、サスケの両親がナルトを引き取って、わが子のように育てたのである。しかし、小学校の中学年になった頃からナルトはサスケの両親に敬語を使うようになり、『旦那様』『奥様』と呼ぶようになった。サスケのことも『サスケ様』と呼ぼうとするナルトにサスケは今まで通りがいいと言ったので、今の状態がある。ついでに言うと、サスケの両親も昔みたいに『父さん』『母さん』と呼んでほしいと思っているのだが…。
 ナルトとサスケは同い年ということもあり、昔からとても仲が良かった。それもあったのか、親の言うこともろくに聞こうとしないサスケが、ナルトの言うことだけは渋々だが素直に従うのだ。
 ずっと一緒にいたナルトに恋心を抱いたのはいくつの時だろう。それ以来、ナルトに好きになってもらえるようにずっと頑張ってきた。勉強だって、運動だって、誰にも負けないように。自分だけを見るように。
 勉強自体はあまり嫌いではなかった。だけれども、家庭教師が来ている間、ナルトは自分のそばにいないので、楽しくないのだ。だから、逃げ回って、ナルトしか思いつきそうにないところに隠れているのだ。
(いいこと思いついた)
「だったら、ナルトも一緒に勉強すればいいじゃないか」
「けど、色々仕事もあるし…」
「お前もやるなら、俺も真面目にやる」
「う゛〜。けど、俺とサスケじゃあレベルが違いすぎるってばよ」
「そんなこと関係ない。それに、ナルトの成績だって十分だろ」
 ナルトの成績は、学年でいつも10位以内に必ず入っている。もちろん、サスケはいつでも学年トップだが。
「それは、サスケがいつも教えてくれるからだってば。やっぱり差がつくってばよ」
「だったら、ナルトに合わせてもらえばいいだろ」
「それじゃ、意味がないってば。それに、俺勉強ってあまり好きじゃないし…」
「だったら、いるだけでいい」
「それじゃ、邪魔になるだけだってば」
「邪魔なんかじゃない。お前がいるならしっかりやる」
「……はぁ〜。わかったてば。その代わり、旦那様が了解してくださればの話しだってば」
「あぁ。わかった」
(親父を納得させるなんて簡単なことだ)
 案の定、サスケは簡単に了承を得た。
 家の人間は、自分がナルトのコトが好きだということに気づいている。
 まだ、気づかないでほしいと思いつつ、早く気づいてほしいと思っている自分もいる。
(我ながら矛盾してんな)
 そんな矛盾した自分に苦笑してしまう。
(まぁ、焦らずのんびりいこう。時間はまだまだあるし…)



-Next-
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ