お題
□触れられないもどかしさ
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「………あっ…」
気が付くと、微笑んでいたナタリアの姿はなく目の前に映ったのは、宿の天井。
一応ルークと二人部屋なのだが周りにその姿は無く、ただ自分が横たわっていただけだった。
懐かしかったな…
思えばあの頃からナタリアのことが好きだったのかもしれない。
この性質のために、自覚し始めたのはかなり後のことであったが…
「ナタリアに触れたのは、あれっきりだった気もするな」
そう思うと、何故だか急に彼女の顔が見たくなった…
もし彼女が宿にいるなら、一緒に買い物に行くのも良い。
多少、距離を置く事になってナタリアはむくれてしまうかもしれないが…
よし、と意気込んで部屋を出るとまさに誘おうと思っていた彼女がそこにいた。
上手く状況が掴めず、ドアを開けた状態の動作で静止してしまった。
「な、ナタリア…なんでそこに?」
「何故って…貴方の姿が見えないから来てしまったのでがすが…迷惑でしたか?」
「そんなことはないよ」
「あら?ガイ、もしかして寝ていました?寝ぐせが立っていますわ」
俺の頭に手を伸ばすナタリアに気付くと、自然と身体が震えて後ずさりしてしまった。
あ、とナタリアは自分の行動の理由に気付き、手を引っ込めた。
「すみません…そういえば女性は苦手でしたわね。でも今後のためには私にくらいは慣れていただきたいですわ!」
「そうだね。そうしたいよ」
「?どうかしましたの?いつもは無理だと否定なさるのに」
「え、いやなんでもないさ。あぁ…ナタリア。これから時間はあるかい?良かったらこれから買い物に付き合ってくれないかな?」
「えぇ!私も見ておきたいものありましたの!ご一緒いたしますわ」
それじゃあ行こうか、と声を掛け俺とナタリアは宿を後にした。
自分から誘っておきながら、微妙な距離を置きつつの買い物は彼女に迷惑を掛けてしまったと思う。
触れたくても触れられない。
傍にいたくてもいられない。
このもどかしさに呆れながらも、もう少しこの距離を堪能するのも良いかと思う可笑しな自分もいた。
END
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